葉

寝姿山のトンネルの事実〜その
進入 2007年8月11日   
 
寝姿山のトンネルの“事実”
 
 これはトンネルの“事実”であって、“真実”ではない。

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入坑して約120m。既に入り口の光はライトを消した時にわずかな点として蒼く認められるだけだ。そして目の前には、下の画像の光景が私たちを待っていた。この残酷な光景。私の脳裡には、こんな言葉しか浮かんでこなかった。

そう、「落胆」、「失望」、「絶望」、「終焉」、「ジ・エンド」

  「落胆」、「失望」、「絶望」、「終焉」、「ジ・エンド」

  「落胆」、「失望」、「絶望」、「終焉」、「ジ・エンド」

  「落胆」、「失望」、「絶望」、「終焉」、「ジ・エンド」

 終わった…。


                    こ、これは…  埋まっている、見事に…  

 寝姿山の中腹に開いているトンネルは、坑門から150mほどの地点で落盤によって閉塞していた。

 したがって、このトンネルがどこまで掘削されていたのか、間戸が浜からのトンネルとどのように連絡していたのか、あるいはどこまで掘り進んでいたのかなど、闇に包まれることになってしまった。従って、真実は分からない。ただ「トンネルは山側から約150mの地点で落盤により行き止まりとなっている。」という事実が存在するのみだ。

水はあくまでこのように澄んで、相変わらず足が凍えるほど冷たい。


      坑門からここまで、水は始終このように澄んではいた

 しかし実は、まだ行けるのではないかと、一縷の望みを託して、落盤によって埋もれた坑内をくまなく見てみたのだ。



坑内の天井部分はこのようにコンクリートで覆工してあるが、岩盤が弱いのか、それともコンクリートの質がよくないのか、一部が剥落している。



しかしその奥は、と見れば、天井そのものが抜け落ちているようで、ここから先の進入は絶望的である。

だが、この閉塞地点は本当にここで私たちの歩みを止めるのだろうか。

(90m地点の落盤も乗り越えることができたんだ。もしかしてまだ行けるかもしれない)

 一縷の望みをライトに託して奥をくまなく照らしてみた。しかし、体を滑り込ませられそうな隙間は認められたものの、その奥は完全に閉塞しているようだった。

わずかに左隅に空間が見られるので、そちらに希望を託してよく見てみたが、かろうじて体を滑り込ませることはできそうだが、やはりその奥は土の色しか見えていない。もはやここまで…。



 見ると、盛り上がった土の上に、古い日本酒の小瓶一本横たわっている。いつのことかは分からないが、誰かが持ち込んで立てたのだろう。
 隊長がそっと手にして直立させた(ホントは初めに見た時のままにしておく方がいいよね)。それはまるでここで潰えた隧道の行き先を弔う墓標か卒塔婆のように見えた。これから先、何年もこの小瓶はこうして沈黙しつつ、再びここまで来る者達を待つのだろう。



再び書こう。


  終わった…。


坑口からおよそ150mの地点だった。


          ダメだ、体を潜り込ませることすらできないだろう

振り返ると、遙か彼方に、遠くから見た蒼い幻灯の明かりのように、坑門から光が届いていた。


           125mの彼方から届く蒼い白日の光だ

帰還
 さあ、もどろう。あのむせるような真夏の太陽の下へ。

 しかしここに思わぬ伏兵が潜んでいた。来る時に立てた水煙が水中の足元の様子を隠しているのだ。やたらに歩を踏み出すと、尖った岩を踏んづけたり足首を傷つけたりしてしまう。最悪の場合は、足を取られて転倒し、全身ずぶ濡れになってしまうことだろう。

慎重に歩を進めた。それでも何度か尖った岩で足首を擦ってしまった。隊長は大丈夫だったのかニャ。



帰りは、比較的ゆとりを持って洞内を見ながら歩くことができた。

このように上部が落盤を起こしているところは、路盤に土が積み上がっている。



コンクリートで巻いたところには、このような補強板が残っている。地盤が安定しなかったのだろうか、地質が軟らかいのだろう。



所々には、照明か電線を支えていた吊り具が見られた。



せっかくの澄んだ水も、一旦濁らすと、私たちが帰る前に再び澄むことは難しかった。



坑門に近づくにつれ、身にも心にも開放感が湧き上がってきた。生還したのだ。よかった…、本当によかった。


    最後の撮影をする隊長 私の写真はブレブレだ  水中であっても三脚は必須だ…

こうして、私たちはあのむせ返る真夏の白日のもとへ帰った。


             「寝姿山のトンネルの事実」〜その4
                                             
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