手石の弥陀三尊とは
南伊豆町手石(ていし)には、阿弥陀窟と呼ばれる海蝕洞窟があります。その阿弥陀窟には、限られた条件の下でしかお姿を現さない阿弥陀三尊がおられるといわれています。
阿弥陀窟に入ることができるのは、初夏の大潮の昼近く。潮位が下がり、風がなく波が穏やかな時にだけ、小舟で入ることができます。
阿弥陀窟の中には、金色に輝く弥陀菩薩、勢至菩薩、観音菩薩の三尊が出現するといわれます。はたしてその三尊はどんなお姿なのでしょう。大きさは? 形は? 色は? 阿弥陀様は、外国のゴーストのようにゆらゆらとした霧が観音様の姿をして現れるのでしょうか。それとも3次元ホログラムのように宙に浮いた姿が見られるのでしょうか。あるいは海面で反射された光が収束して像を結ぶのでしょうか…?
資料を読んでも、いっこうに具体的な姿を思い浮かべることはできません。ぜひ一度、そのお姿を拝んでみたい、その思いは募るばかりでした。
今から1年前の5月、年に一度の一般参拝客を募るツアーが計画されたので申し込んだのですが、前日になって「波が高いので中止します」との無情の電話が…。泣く泣くあきらめました。しかし今年もまた手石の民宿組合の厚意によって計画されました。新聞でその企画を読んですぐに申し込みをした私。今年こそはと、満を持して臨みました。
伊豆に風力発電の風車は似合わない
5月24日日曜日、曇り空の下をオートバイで手石に向かいました。漁協の手前まで来ますと、手石港の岸壁に何やら大きな工作物がたくさん置いてあります。よく見ると、それは風力発電の羽根や柱でした。いつの間にかこんなものが持ち込まれていたんですね。ということは、南伊豆の山のどこかにこれらが林立することになるのでしょう。やめてほしい…、私としてはそう思います。

手石港に陸揚げされた巨大風力発電機のプロペラ
小稲の港へ
午前10時少し前、小稲港に着きますと、そこには既に舟を待つ人の列ができていました。

小稲の港遠望

桟橋へと歩いていきます
受付をしていたのは、手石民宿組合の「ニュー望月」の望月さんです。民宿の宿泊客でなくても乗船させてくれるという、ありがたいご配慮に感謝しながら、自分の名を告げました。
今回、阿弥陀窟に行く舟は一隻で、一回につき6名の参拝客を乗せていきます。ということは、ざっと人数を数えてみて、私の番は4回目ぐらいに回ってくる勘定です。気持ちははやります。
天候はあいにくの曇り空で、やがて雨が降ってきました。こんな天候でも、阿弥陀三尊は見ることができるのでしょうか。
小学生ボランティアガイド
出ていった舟は、だいたい20分ぐらいで参拝を終えて戻ってきます。
先に乗った人たちの舟が戻ってきました。

戻ってきた船の人たちは弥陀三尊を見たのでしょうか
簡易桟橋に手を掛けて慎重に下船している人たちは、
「見えた、見えた、一つ見えたよ!」
「私はよく見えなかったなあ…。」
などと興奮したように話しています。 望月さんは、
「行いのよくない人には見えないんだよ。だから、見えなかったとしても『見えた見えた!』と言うのがいいんだよ。」
と仰っています。
救命胴衣をお客達に渡しているのは、小学生ボランティアガイドのryoくんです。望月さんのお孫さんで、南伊豆東小学校の5年生。働くのが好きなようで、甲斐甲斐しく動き回っています。

小学生ボランティアM君
そんな「小学生ボランティアガイド」なる組織はいつ発足したのだろうと、ryo君に聞いてみました。
M君だけの名札(名札の一部は加工してあります)
そうしますと、何と、
「ガイドは、ぼく一人です。学校にはそんなクラブはありません。お客さんに土地の話をするのが好きだからと、役場の人がこの名札を作ってくれました。」
と言うではありませんか。ほとんど私設ボランティア協会ですね。でも一人でも頑張るのは見上げた姿勢です。きっと南伊豆の観光を盛り上げる一助となることでしょう。
さて、阿弥陀窟を擁する岸壁の上にはかつて阿弥陀堂があり、そこには江戸のお台場の基礎に使われた伊豆石を切り出した記念碑があるといいます。それがどの辺りにあるのか、舟を待つ間、望月さんに尋ねました。すると、
「それなら渡辺さんがいるから、呼んでやるよ。おーい、渡辺さん!」
と堤防の方にいた人を呼んでくれました。 来てくれたのは、『南史』代表の渡辺M男さんです。長年お会いしたいと思っていた方です。イメージからしててっきり頑固なお年寄りだと思っていましたが、いえいえ、柔和な笑顔をたたえた若い方でした(でも私よりは年上だと思います)。

渡辺さんには、石碑のある場所への登り口を教えていただきました。後で行ってみようっと。
いよいよ乗船!
11時00分、いよいよ私にも救命胴衣が回ってきました。
「舟の舳先に座らないと阿弥陀様はよく見えないよ」
というアドバイスに従って、前の方に腰を下ろしました。
エンジンの音が大きくなり、舟が桟橋を離れました。いよいよ出発です。

舟が岸壁を離れていきます「行ってきま〜す」

私は泳げないので海は恐いのですが、がまんがまん
左右に荒々しい磯の風景を見ながら、舟は沖に向かいます。やがて船首を北に向け、弓ヶ浜の方に進みました。磯では、釣り客が糸を垂れています。磯には、いくつか海蝕洞があるようです。阿弥陀窟も、そうした海蝕洞の一つなのでしょう。
港を出て北に向かいます
阿弥陀窟に到着!
やがて左舷側の崖に、一本の白い石塔が立っているのが見えました。あれが資料の写真で見ることができる、阿弥陀窟の名号塔でしょう。いよいよやってきたんだ、という思いがしました。

写真で見たことのある阿弥陀窟の名号塔が見えます
名号塔を実際に見たのは初めてです これかぁ〜
舟は、その石塔の下で減速し、少し行き過ごしたところにある洞穴に舳先を向けました。ここが阿弥陀窟です!
洞窟にゆっくり入っていく舟。寄せては出ていく波に、船体がゆらゆらと揺れます。
果たして弥陀三尊は私に見えるのでしょうか?! そしてそのお姿はどんな様子なのでしょう!?
「手石の阿弥陀窟で弥陀三尊を拝む」〜その2へ
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