葉

 天城湯ヶ島町から与市坂、そして大川端へ
                             2002年10月5日探訪 

 天城湯ヶ島町は、下田から江戸に向かうハリスの一行が2泊目の宿をとったところです。また、井上靖の『しろばんば』の舞台にもなっています。天城手前では最後の大きな町です。この町を後にしますと道は徐々に淋しくなりますが、それだけに往時の面影をよく残しているともいわれています。ではご案内いたしましょう。道は徐々に上りになりますので、踏ん張ってお願いしますよ。

湯が島町のサイの神
 老舗旅館「落合楼」近くのポケットパークで一休みしますと、向かい側にいくつかの石造物が並んでいます。左から丸彫単座像のサイの神、石灯籠、そして庚申塔です。サイの神さまは首が取れており、代わりに自然石を載せてセメントでくっつけてあります。
 ここは、いつ来ても新しい花が供えてあるので、感心します。きっと近くの方が気に掛けてお世話をしておられるのでしょう。ありがたいことです。
 

            湯が島町・宿のサイの神

与市坂
 下田街道は、現在の国道414号線をほぼたどって南下したようです。落合楼前を出発しますと、商店や民家がしばらく続きますが、じきに暗く淋しい山の中に入っていきます。
 やがて徐々に前が明るくなりますと、「水恋鳥広場」という野外活動フィールド場の案内板があります。下田街道は、この辺りで河原に下り、山裾を進んだようです。が、その道筋は道路工事によって確認することができないようです。
 与市坂といえば、かつての地震で山が崩れ、バスが埋まって亡くなった方がおられました。また、明治期に開かれた新下田街道の工事中に落石の下敷きになって亡くなった巡査もおられたそうで、その霊祠が国道脇に安置されているそうです。「坂」というのは、いわくのある所なんですね…。

石仏
 誰もいない「水恋鳥広場」を過ぎて、田畑の中の道を歩きます。やがて再び民家の並ぶ古道となります。あるお宅の庭先には、与一坂からの湧き水を利用して、ほんとに小さなわさび田を作ってありました。中にアヒルのおもちゃがありましたので、きっと小さなこのいるお宅なのでしょう。
 そうして歩いていくうち、右手の川向こうに発電所が見えてきます。落下式発電をする施設のようです。所員の社宅らしき建物もあります。幼少の頃、東伊豆町・白田発電所から小学校に通っていた同級生がいました。同じような社宅に住んでいましたが、今はどうしていることか…。結婚した時は三島で暮らしていると聞きましたが。(余談でした。)


              湯が島発電所

 集落を過ぎて砂防堤に突き当たる左に、舟形光背を持つ単立像のお地蔵様がおられます。高さは1mほど。光背に「□政(文政でしょう)六寅歳(1823)年…」という銘があります。かつてたくさんの人々が往来した姿を静かに見つめていたのでしょうね。



馬頭観音
 
地蔵様に手を合わせ、砂防ダムを鉄製の階段でよいこらしょと越えますと、街道は車道脇を離れて2,3の木橋で沢を渡ります。何度か掛け替えられた橋の近くには、古い橋の残骸や礎石が横たわっていました。



 沢を渡ると、天城山荘下の崖下を通ることになります。ここには町によって立てられた「落石注意」の立て札があります。柱状節理が見られるその崖は、確かに危なっかしそうです。昔の人もここは足早に通り過ぎたのではないでしょうか。無事に崖下を通り過ぎたところにある「ご協力ありがとうございました。」の立て札が泣かせます。
 ここで、道は天城荘前の国道とバス停に出ます。横断歩道はカーブにあり、車は歩行者を見ても全く止まってくれないので、現在はここがある意味下田街道の一番の難所だと思います。

 無事に道を渡れましたら、石の階段を上って街道筋に戻ります。国道はかなり土地を掘り下げて作ったようです。階段を上り詰めますと、そこは小さな休憩所になっています。右手に、金属で作った文学碑があります。一方、左の松の木の根元には馬頭観音があります。ベンチもあるので、ここで一休みすることにしましょう。水筒のそば茶は、まだ熱い香りを保っています。


      

 ここから下田街道は、現国道がつづら折りになって登っていく中央を貫くようにして真っ直ぐ登っていきます。



浄蓮の滝
 天城を観光で訪れた人は必ずここに寄りますよねー、と言うくらい有名な滝です。以前、テレビの心霊スポット紹介番組でも扱っていました。もちろん旅番組でも何度か取り上げられています。ま、そんなことはどうでもよろしい。心霊なんていないですし。
 特に滝には関心がないので、画像はありません。一度寄ったことはあるのですが、駐車場が一杯で車を停められなかったので、スルーしました。かつてはここで足の疲れた旅人が滝を眺めて痛みを癒したのでしょう。ちなみに滝の無料駐車場は街道から少し離れていますが、そちらはにぎやかなので、すぐに分かりますよ。

山神様
 
浄蓮の滝駐車所の喧噪を右に聞いて、なお街道を真っ直ぐ上ります。そろそろ集落の外れかな? と思う所の左に、神社があります。近くの家の奥さんに聞いたところ、「山神様ですよ。」と教えてくれました。竹藪に囲まれた参道は、ざわざわと淋しげな音を立てています。


サイの神
 山神社を過ぎて杉林を抜けますと、辺りは明るくなります。その右手に納屋があり、その道ばたに新しいサイの神があります。平成になって立てられたようです。これはきっと信心深い篤志家が立てたのでしょう。それとも、もともとここに古い道祖神があったのを立て替えたのでしょうか。地元の方に聞いてみないと分かりません。



野畔の地蔵大菩薩
 
「野畔」と書いて「のぐろ」と読むそうです。バス停にその名が付いています。
 ここに、資料『下田街道』に記載されていない石造物、「野畔の地蔵大菩薩」があります。この情報は、出口の森島様より提供していただきました。
 バス停「野畔」近くの街道に、「東京営林局」の「天城研修所」へ行く道と交差するところがあります。近くには、「昭和天皇 お手植えの杉 昭和21年8月23日」の記念碑と杉の木があります。ちょうど車を停めるところもあり、休憩用の東屋もあります。水飲み場の水は蛇口をひねっても出ませんでしたが…。
 さて、天城研修所に向かう車道を上がって建物が左に見えるところまで行きますと、右に大きな石碑があります。これが「野畔の地蔵大菩薩」です。はじめはこれを、略地図を片手に探し回りました。でも見つけることができず、天城会館で蜜柑を売っていたおじいさんに聞いてやっと分かりました。
 高さは150cmほど。「明治廿七年九月廿四日建立 南無地蔵大菩薩」と銘があり、発起人の氏名も刻まれています。天城湯ヶ島町の郷土史家の飯島先生という方が詳しく調べておられるそうですが、どうやら天城隧道の建設に関わった石工さんが工事の安全や隧道を行く旅人の無事を祈って立てたようです。
が、詳しいことは全く知りませんので、さらに情報を収集しようと思います。



道の駅・昭和の森会館と旧井上靖邸
 さて、道を進みましょう。この辺りは下田街道が「踊子遊歩道」として整備されており、昔の様子をほぼそのまま伝えているそうです。国道を行く車の音が近づいたり離れたりして緩やかに登っていきます。
 やがて石段があり、下りたところで国道に出ます。目の前に「道の駅・昭和の森会館」があります。ここは横断歩道がありませんので、車に注意して渡ってください。
 ここには、下田街道や天城隧道、踊子遊歩道に関する看板や、川端康成や天城に関する資料を展示した
資料館などがあります。もちろん「道の駅」ですから、ドライバー向けの施設や売店もあります。休日は結構旅行客で賑わっています。
 敷地の南に、天城湯ヶ島町から移築したという旧井上靖邸があります。井上靖といえば、湯が島町を舞台にした自伝的小説『しろばんば』が有名です。読破したら、入館してみたいと思います。(でも私はつん読家だからなあ…)
 ここから下田街道は現国道と狩野川に挟まれた所を通ります。道は緩やかな上りですが、比較的歩きやすいです。



滑沢渓谷と太郎杉
 資料『下田街道』によりますと、「出水橋」のある辺りで下田街道は狩野川を渡り、大川端まで川の左岸を進んでいたそうです。「出水橋」は国道にかかった小さな橋で、袂に表示があります。
 その手前に、滑沢渓谷という名所があります。国道から西に入る林道があり、太郎杉まで約30分ほどのハイキングコースがあります。ずっと林道が通っていますので車でも行けます。ただし未舗装路です。

そして大川端へ
 「出水橋」で街道は狩野川の左岸に移ったそうですが、踊子遊歩道は右岸を進みます。
 道の駅・昭和の森会館から寄り道をしないで歩いて、1時間ほどで「大川端キャンプ場」に到着します。ここのキャンプ場の管理は、先ほどの昭和の森会館で行っています。冬季は営業していません。お疲れさまでした。ここでちょっと一休みしましょう。場内には、長野から引っ張ってきた森林鉄道の機関車と客車が展示されています。お弁当を広げられる施設もあるので、管理人さんに許可を得て利用するとよいでしょう。
 さて、ここで街道は二手に分かれます。キャンプ場の管理棟手前を右に行くのが二本杉峠方面です。いよいよここから道が険しくなり、正念場となります。靴のひもを締めることにしましょう。
 左(直進)へ進むと、道は天城隧道方面へつながります。バス停「水生地下」で国道をくぐり、(横断もできます。駐車場有り)明治期の下田街道に入ります。むしろそちらの方が下田街道として有名ですね。
                                             
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