葉

横谷渓谷で滝巡りツアー
探索 2007年11月4日   
 
滝巡り第2弾
 渓谷といえば滝、滝といえば紅葉とのコントラスト。11月になって高地の山々はそろそろ紅葉のピークが過ぎていると聞き、私とHAL隊員は今年最後(といっても彼と行動するのはまだ2回目だが)の滝巡りに出かけた。

 目的地は、某県の横谷渓谷である。渓谷の沿っていくつかの滝があり、厳冬期になると小さなそれらは氷爆となって、幻想的な景色を創り出すという。
 午前2時30分。昨夜は早めに寝たので気分はすっきり。86号のエンジンも快調に目覚めた。これから下田を出て、朝霧高原経由で目的地に向かう。  早朝なので幹線道路は空いており、朝霧高原には2時間で到着した。
 午前4時、朝霧高原道の駅でHAL隊員をピックアップして、県道を本栖湖で左折。精進湖線(今はそう呼ばないのかな)の長いトンネルを2つくぐって、甲府盆地を目指す。
 朝霧高原から中央高速甲府南インターまでは、わずか30分。こんなに山梨県は近かったんだ。さらに、例えば長野県の八ヶ岳辺りへと足を伸ばしても、早朝に走るなら下田から3時間半で着くだろう。近い。近くなっている。
 夜明け頃、八ヶ岳PAで小休止する。右は八ヶ岳、左は鳳凰や甲斐駒ヶ岳がそびえている。観音像を思わせる鳳凰のオベリスクや、甲斐駒ヶ岳の独立峰らしい凛とした山容は、国道20号線から見える風景のハイライトだ。この景色、久しぶりである。


          小淵沢PAで朝日を浴びる86号 実はかなり寒い


     朝焼けに染まる甲斐駒ヶ岳 私が山頂まで登ったのはもう29年前のことだ

頂上直下で聳える摩利支天は、甲斐駒ヶ岳の重量感をさらに増している。力強く、神々しくもある山である。


          霧の中央高速下り線

 中央高速を諏訪南インターで下り、市街地を抜けて麦草峠へとステアリングを向ける。 麦草峠は、就職して2年目だっただろうか、ハスラー250でツーリングに来たことがある。標高が上がるに連れてキャブレターの混合比が悪くなったためだろうか、アクセルを捻ってもなかなかパワーが出ず、難儀した覚えがある。

 しかし、その頃の風景の記憶はすっかり忘れてしまっていた。麦草峠へのワインディングロードは、今は“メルヘン街道”と呼ばれており、落葉松の中を縫って峠へとドライバーを導いていく。

 今日の滝巡りの計画は、こうだ。  まず横谷渓谷の下の入り口に車を置き、そこから路線バスで渓谷の上の入り口まで行く。そこから滝を見ながら渓谷沿いに作られた遊歩道を下ってくるのだ。そうすれば、疲労することなく滝を見られるという訳だ。時間に余裕があれば、車で渓谷の奥にある明治温泉まで足を伸ばし、温泉に入ることもできる。いいコースではないか。

乙女滝
 しかしここで失敗…。ナビの付いていない私の86号。「ここからバスに乗るんだよね」という計画だった横谷渓谷のバス停を、一度通り過ぎてしったのだ。気づいてからあわててUターンしたものの、私たちが乗るはずのバスと途中ですれ違ってしまった。 ガーン! バスの本数は、1時間半に1台の割合だ。ま、気を取り直して、先に“乙女滝”を見てこよう、という事にした。

 バス停奥の無料駐車場に86号を停め、遊歩道方面へと緩やかな坂を登っていく。向かいのバス停の近くに、「信玄公の棒道 50m→」という案内板が立っている。気になるう〜。
 また。ホテルとの分岐点に神社があり、参道脇に石仏がある。見ると、光背型単立像の馬頭観音である。摩耗のために銘は読めないが、近郷から寄進された像であろう。
 神社の名は“木戸口神社”。武田信玄公がこの地に戦力を展開した時に、歓迎をする地元の名士が建立したらしい。


          下から拝見しただけで、参拝はしなかったです


            冠に2つの馬頭を戴いている

 遊歩道から5分ほど下ると、乙女滝がある。まだ朝日が差していないので、日陰になっているのが残念かも。


         実はこの先には大きな温泉ホテルがあるのだ


      乙女滝 落差18mほどかな

 元来た道を戻り、棒道の表示の方へ入ってみた。周囲は別荘地のようだが、案内に沿って行くと、これが棒道らしい。騎馬隊の進軍道路のはずだけど、こんなに狭かったのかなぁ?


           信玄の棒道って、もっと広いはずじゃない?

滝見平
 棒道を探して道の止まりまで行ってみると、さっき見てきた乙女滝や、横谷渓谷を見渡せるところに出た。別荘地の表示に「滝見平」とある。「滝」とは乙女滝のことであろう。山が急峻で高いのは、下田とだいぶ違うところだ。


         朝日が山によって半分だけ遮られているのが残念

ハーレーの二人連れ
 バス停に戻って支度をしていると、1台のハーレーダビッドソンが止まっている。どうやらツーリング途中でトイレ休憩に寄ったようだ。
 運転しているライダーは、初老の男性。とすると、ヘルメットから長い髪をなびかせていたのは奥様か。そう思っていたら、あれれ、戻ってきた女性はずいぶん若い。娘さんかあ。そう思って、ライダー氏に声をかけた。私もライダーだかんね。最近乗ってないけど。

「おはようございます。奥様とツーリングされているのかと思いましたら、娘さんなんですね。」

しかし返ってきた答は、何と、

「いえ、孫です。」

 ま、孫〜!? そういえば女性をよく見ると、小学校6年生ぐらいの子だ。髪が長いので勘違いした〜。


      ハーレーのことはよく知らないけど、この車種は排気量1350ccでしたっけ?

 ハーレーは相模ナンバー。お二人は厚木から来たそうだ。格好いいおじいちゃんの背中にしがみついて、中央高速を飛ばしてきたのかな。羨ましい話である。
 やがて2人の乗った機械の馬は、大地にたたきつけるような豪快な排気音を森に響かせて、麦草峠を目指して走り去った。しばらくの間、コーナーを抜けるたびにビッグツインエンジンの雄叫びが響いていた。  

レトロバスに乗って
 8時24分、茅野から上ってきたバスは、“レトロバス”と呼ばれる、よい雰囲気のある車だった。1つ前の乗り損ねたバスは普通の形の路線バスだったので、それはもうよしとしましょう。怪我の功名ではありませんか。


          レトロスペクティブなマイクロバス(フロント部分だけがね)

でも乗ってみると内部は普通のマイクロバスだったが、いいではないか、メルヘン街道を走るんだもん。


          レトロなバスでもワンマンバスで、車掌さんは不在…

 バス停から歩くこと5分。横谷渓谷を見下ろす展望台へ来た。

 今日の空は、どこまでも青い。遠くには、冠雪した南アルプスの山並みが連なっている。低いところを流れる川は梓川だろう。茅野の街並みには、人々の生活の営みによるものか、白い靄がたなびいている。手前ではそろそろ終わりかけた紅葉が山肌を駆け上り、森を黄や茶に染めている。そして左下に見えるのが“王滝”の白い軌跡である。


         左下の影の中に王滝が小さく写っている

 遊歩道の下り口には「ここから先は、遊歩道というよりも急峻な登山道です。落石や滑落事故に十分気をつけてください…」という注意看板が立っている。下から登ってきた人たちに挨拶をすると、「下のバス停から1時間かかりましたよ」などと話している。紅葉見物と体力作りを兼ねているんだろうな。
 今日の探索、いや、ただの滝見ツアーだけど、デジ一を取り付けた三脚を担いでいるので、ちょっと手の自由が利かず、厳しいかも。すっころんだらカメラが地面の岩に激突→破壊となってしまう。細心の注意を払って下っていく。


       振り返って撮影 すでに紅葉のピークは過ぎている

 下り始めて10分後、王滝を見られる展望台に着いた。さすがにここではカメラマンが数人、シャッターを何回も切っている。


        おお、撮ってる、撮ってる みんな写真が好きだなぁ

 と滝をよく見ると、滝壺の脇に男性がいる。あ、あんなところに降りることができるのだろうか。もしかして探検家? 危なそうなのになー、と思った。


         遠くから見てもなかなかの威容を誇る滝だ

 急な下りの登山道を冷や冷やしながら降りて、渓谷沿いの道に立った。ちょうど居合わせた男性にそれとなく滝壺の脇に人がいたことを話すと、そこに行く道はちゃんとあり、滝壺に行くこともできるという。これは行くしかないですねー。

 が、滝までの道は平坦ではなかった。勾配は少ないものの、渓流を渡るところはつり橋で、そこからは朽ちかけた木橋を渡らなければならないなど、今回一番の難所だったのだ。


          実はこの木橋、右に傾いている


      全体的に茶色っぽい景色になってしまったのが残念だ


         この橋も傾いている上に滑りやすい 危険!


          これは名もない滝 河床が独特の色をしている

 王滝では、なるほど滝壺のすぐそばまで寄ることができた。


           遠くから見た方が迫力があったかも?

水の流れを強調するために、慣れないデジ一のスイッチをTVモードにして、シャッタースピードを1/6秒ぐらいに設定。これだと露出オーバーになってしまうので、ISOを400から100に変更し、シャッターを切った。滝を落ちる水の飛沫がレンズを濡らすので、頻繁に拭わないとボケてしまう。おまけに、朝の太陽光線が逆光になっているので、微妙に葉の陰を利用してポジションを選ばないといけない。滝は逃げないといえども、撮影は簡単ではなかった…。


           滝の飛沫がレンズにつくくらい近寄ってみた

昼食タイムは
 登山道はふたたび遊歩道となり、いくつかの滝やそびえ立つ絶壁を見ながら、緩やかに下っていく。


          遊歩道はいつしかお散歩コースとなった もう安全


           この“霧降の滝”も冬は氷爆になるという

 とりあえずお昼を食べようよ、ということで、バス停そばの十割そばを売り物にしている蕎麦屋に入った。しかし、営業中という看板は出ているものの、店内は薄暗い。すでにお客はいるものの、何だか本当に営業しているのかなあ、という感じ。天ぷらそばなど、ある程度ボリュームのあるメニューを期待して入ったのだが、お品書きには“もり”や“ざる”ぐらいしかない。これではお腹が膨らまない。そうだ、道の向かいに食堂があったっけ、と思ったのが間違いの始まりだった。

 他の客の前を通って蕎麦屋を出て、道を渡って食堂に入った。ここはバスに乗る前に道を尋ねた店だ。親切そうな主人だったので期待できるかも、と思ったのだが…。

 中はスナックを改装したような小さな店で、元気のよい奥さんがすかさずお冷やを出してくれた。が、ここもメニューを見ると「味噌ラーメン」「なめこそば」「カレー」「おでん」「馬刺し」など、脈絡のないメニューがわずかに並んでいるだけだ。観光地伊豆の駅前食堂でもかつ丼や各種定食は用意されているだろうに…。
 しかしもうお冷やが出されてしまったので、店を出るにも出られない。しかたなく私はカレーを注文したが、運ばれてきたそれを見て、食べる前に分かった。レトルトカレーだ…。え〜ん(;_;)  隣の客が注文したおでんも、たぶんレトルト。おふくろの味ならぬ、「袋の味」。どうした蓼科! どうした長野! 立地条件だけに頼った営業では、観光客はがっかりして帰るだけだよー。

食い物の何とやら…
 もったいないと思いつつ、半分だけ食べたカレーを残して、失意のうちに店を出た。トホホのホ、である。
 帰路につくことにして車で県道を下り始めると、ぬわんと、良さそうな信州蕎麦屋が森の中に並んでいるではないか。

「あっ、蕎麦屋がたくさんある〜。こっちに来ればよかったー。」と、思わず口に出して悔やんでしまった。

HAL隊員は、 「長野といえば信州そばなのに、そういうアタマは鈴ねこにないのか、と思っていたよ。」と宣う。 うーん、そうだった。信州といえば、そばではないか。悔じい〜!

馬頭観音石像群
 県道が唐松林を抜ける頃、左手に石仏をいくつも安置してあるのが目に留まった。引き返して車を停め、見に行ってみると、それは馬頭観音像であった。


       大きな自然石の上に鎮座する沢山の石仏 22の馬頭観音様である

 耕地整備をした時に、あちこちに点在していた像を集めたのだろうか。単に集めてしまうと、味気ない感じがする。それぞれの畑でそれぞれの表情を持って農耕作業を見つめていただきたいものだが。


       下田や河津の馬頭観音像とはちょっと意匠が違いますね


        建立されたのは江戸期から昭和前期までのようだ

無理してリベンジ
 それにしてもせっかく長野に来ておきながら蕎麦を食べないのは悔しい(←まだ言ってる)。

「鈴ねこは蕎麦を食べたいんじゃないのか? 何ならさっき店が並んでいたところまで引き返してもいいよ。」とHAL隊員が言ってくれた。

「そうだねー、やっぱり悔しいよね。なんで信州蕎麦のことに気づかなかったのかな…。まだ下に店があるかもしれないから、次に見つけた店に入って、食べたいな。」と、さらに県道を下った。


              遠く望む八ヶ岳北部の山並み

 すると広い畑が終わる頃、一軒の蕎麦屋を発見。観光客向けの立派な建物ではないが、いかにも手作り風のイメージがする店だ。
 すかさずHAL隊員が店の外観をチェック。「看板に、手打ち、石臼挽き、地粉って書いてある!」と、O・Kが出たので、さっそく飛び込んだ。


         やたーっ、蕎麦屋だー!

 店の名は「つる梅」。20席ほどの店内は意外にもほぼ満席。ちょうど女性四人連れの客が出ようとしているところだったので、その席につこうかと思って何気なく見ると、どの客もそばを食べ残している。

「量がたくさんだから、食べきれなかったわ。ごめんなさいね。」と言って、その4人のお客は出ていった。  

 6脚のいすがあるテーブルに、後から来た初老の夫婦と座り、私は“もり”、HAL隊員は“天ざるそば”を頼んだ。
 ご覧いただこう。これが信州蕎麦のもりそばである。



 そばは手打ちの太目。ザルから溢れんばかりに盛られている。豪快な盛りつけである。伊豆の小洒落た手打ち蕎麦屋の蕎麦とはボリュームが違う。これが信州蕎麦というものなのか。  

そしてこれがてんぷらそば。素朴な食材を家庭風に揚げている。



 つゆは塩味ベースのやや濃い目。盛り具合は、優に伊豆の蕎麦屋の大盛りレベルである。
 さっそく蕎麦を口に運ぶと、豪快な舌触りに増して立ち上る蕎麦の香りが、ふうっと口の中に広がる。ダイナミックな食感である。

「いいね、これ。店に入って正解だったねー。」と2人で味わっていると、面白いことに、隣席で蕎麦を食べている老夫婦の奥さんが、こちらを見てしきりに笑い出した。

な、何が可笑しいんだろう!? 

それとなく観察すると、

「噛めないわあ。食べきれないわあ。」と連発している。そしてとうとう、半分も食べないうちに、

「ごめんなさい。私、食べられないわ。」と、かなりの量を残して席を立ってしまった。

どうやら、大量の太めんが噛めずにギブアップしたようだ。と見れば、あらら、おじさんの方もかなり食べ残しているー。
隣りで「うまい、うまい」と言いながら喜々として食べている我々を見て、おかしくてたまらなかったのだろう。さっきの女性客達が半分ほど食べ残していた理由もこれで分かった。もちろん、私たちはきっちり全部いただきましたよー。蕎麦大好きだもん。
 あ、それと書いておきたいのは、天ぷらの盛り合わせの中に、ちょっと変わった食材の天ぷらがあったことだ。それは、何と、リンゴの天ぷら! HAL隊員が「これは遠慮しておく」と言うので、もらって食べてみた。くしがたに切ったリンゴの皮を剥かず、そのまま衣をつけて揚げてある。衣の油とリンゴの甘さが微妙な取り合わせであった。女将さんに、長野ではどこの店や家でもリンゴの天ぷらを食すのか、と尋ねたら、そんなことはなく、この店のオリジナルだそうだ。うーん…。


      おぢさんもほとんど食べ残してるじゃん!

 だけど蕎麦屋の女将さん、これだけ食べ残す客がいても、頑なに盛る量を保っているのね。ちなみに、値段は、もり750円、天ざるそば1,600円だった。

そうして信州蕎麦も食すことができ(完全にカロリーオーバーだけど)、改めて帰路につく我々だった。 あー、幸せ。

 帰りは八ヶ岳PAで信玄餅を買い、家への土産とした。朝霧高原道の駅では、ちょうど西の山に日が沈むところで、さっきまで残照が富士山の西山麓を赤く染めていた。


   朝霧高原で見た夕焼け 左に見える点はパラグライダー

帰宅したのは午後9時半。さすがに18時間行動はきつかった…。
                                             
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