三角点を後にして
しばらく休んで、体が少し冷えてきました。まだここから先は長いです。今日はとりあえず「大鍋越え」を目指して歩くことにします。道の様子はどんなのでしょう。河津と池代を結ぶ交易路としての姿が見えてくるのでしょうか。

八木山の奥、563m地点にある三等三角点の石標です
私はまだここからの道を歩いたことがないのですが、先達から情報は得ています。徒歩で、二輪で、四輪で、オフロードをガンガン進んでいった記録をまとめた「らいおんサイト」に、踏破した行程が公開されているのです。道は、三角点からしばらく行くと、防火線が設けられた尾根伝いに北上しているはずです。「防火線」とは、稜線の木々を伐採しておき、万が一、麓で山火事が起こったとしても、炎が尾根を越えて隣町に延焼することがないようにした措置のことです。そこだけ木立がないので、歩きやすいのです。
なだらかに続く尾根の南を、道は進んでいます。伐採された杉の木が折り重なるように置き去りにされていますので、道の姿は消えそうになっています。何とか踏み跡を辿って北上していきます。

尾根の南に位置する踏み跡です
間もなく左手に、落ち込むようにして分岐している道が認められました。須郷の入谷に繋がる道でしょう。地形図に分岐が記載されています。12月に何度か歩いた須郷の道標銘(光背に道しるべを彫ってあるお地蔵様)の分岐に出る道のはずです。

分岐点からいきなり下る道が始まっています
降雨によってでしょうか、U字型にだいぶ削られています。これから歩こうとする鷹峰歩道との合流点が自然でなく、唐突に繋がっているところが不思議です。
しかしこれで一つ、また道の情報を得ることができました。歩く機会の来ることを期待して、先へ進みます。

須郷への分岐を左に見て、なおも道は奥へと続きます
峠を越えて日の当たる雑木林へ
周囲の様子を観察しながら、道があるならここだろう、という感覚で歩いてきます。

S字状にうねる道が見えますね
すると、U字形の窪みが明らかになってきました。両脇を山肌にはさまれた、掘り割りのような形をした道です。道は繋がっています! しかもいい雰囲気で。さあ、行きましょう!

ちょっとした峠道のようになっています

ここを越えるとどんな景色が私を待っているのでしょうか
掘り割りを通り過ぎると、目の前が明るい雑木林になりました。春になったら、新緑が芽吹いて、黄緑色に彩られることでしょう。花粉症でなかったら来てみたいところですが…。

今が春なら、きっと明るい風景が広がっているのでしょう
さて、この辺りはなだらかに広がる山の肩の部分なので、ちょっと目標を見失い勝ちになります。雑木林に入ってからは、踏み跡も見失ってしまいました。尾根筋を右手に見て、おおよそ北を目指して歩いていきます。この辺り、地図とコンパスが必要でしょう。

尾根筋は右手にありますが、広い丘陵なのでやや迷いそうになります
さっきの須郷に下る分岐からおよそ200mほど来たところに、大鍋へ下りる道があります。
地形図に記されたそれは、右手の尾根がひときわ高みを増した杉林の真ん中にあります。 元来た道を見失わないようにして、慎重に大鍋への道を探していきます。

右の緩やかな小ピークを目指して行きます
どうもここらしい、という地点は、杉林が急斜面を持って落ち込んでいるようなところでした。

この先に大鍋への分岐があると、地図は示しています
踏み跡は認められません。いえ、実際に降りていけば踏み跡はあるのかもしれません。しかしこれは…、かなりの急坂ですね。ホントに地形図通りに道があったのでしょうか。

こ、ここが大鍋へ行く道ですかぁ〜?
元の位置に戻り、再び大鍋越えへの道を辿ります。さらに100mほど行きますと、もう一つの大鍋への道があります。こちらは一昨年、TAKE兄さんに教えてもらった道です。さっきの「下り尾根」の一つ北西に位置した、谷道です。やはり踏み跡は見られないのですが、現役HUNTER×HUNTERから得られた情報ですので、間違いではないはずです。

TAKE兄さんに教わった「大鍋への道」はここです
これら2本の道は、いずれ確かめてみたいと思います。必ず、絶対に。
鷹峰歩道へ
大鍋への分岐は過ぎました。ここからは、大鍋越えを目指して歩きます。「鷹峰歩道」という名がついている道です。

広々とした雑木林の中を進んでいきます
大池とは
大鍋への谷道と分かれるところから100mほど歩きますと、杉林の中に“ぬた場”が現れます。ここが“大池”と呼ばれる場所です。

突然現れる湿地、というより水溜まりです なぜここに?
火口湖かもしれない、と言われているのですが、確かにこんな所に水が湧いて溜まっているのは不思議です。水の溜まっている広さは、学校の教室ぐらいあります。

雨水が溜まったのではないような感じです 湧いているのかな、まさか…
迷いやすいところは過ぎました。道の両側には空が並んで見えます。眺望は決してよくないのですが、ところどころで遠く天城の山塊を眺望することができます。
右は雑木林と落ち込んだ谷、左は暗い杉林で、その先は見えません。歩いていく先にははっきりした道があります。ここはもう「鷹峰歩道」なのでしょう。

この窪地は道の痕跡でしょう

あれはどの辺の山でしょうか
歩いていくと、ところどころに人工の杭が見られるようになりました。営林署関連の指標でしょうか

ちょこんと頭を出しています
広い雑木林はやがて細く収束し、尾根筋となって道の造作を許しています。

いい雰囲気の道が続きますが、お地蔵様などはありません
古道で見られるお地蔵様などの石造物は、いまのところ見つけていません。ひとつふたつ、あってもよさそうなものですが…。

椿でしょう 茶色と緑の色彩の中で異彩の紅色をぽつんと灯したようです
おや、枝枝にピンクのリボンが目立つようになりました。

このリボンは、道しるべでしょうね、やっぱり
道の左(南)側は昼なお暗い杉林ですが、右手は比較的開けた雑木林です。道から下を覗き込むと、深く落ち込んだ斜面が見えます。足を踏み外すことはないでしょうが、落ちたらゴロゴロと止まらずに滑落するでしょう。

右(北)側かなりの急斜面が落ち込んでいます
ほとんどうねることなく進んでいた道が、やがて右に左にくねるようになってきました。道の表情が徐々に変わってきたのです。
右に曲がっている道が見てとれますでしょう
これも石造物
お地蔵様などの石造物は見られません。しかし、ほかの石造物なら見ました。それは、営林署関連の境界票です。

しかしこれも石造物には間違いありますまい
三角点からだいぶ歩いてきて、今はかなり山深い辺りに到達しました。穏やかな表情を見せていた尾根道も、徐々にアップダウンをもって私を迎えるようになりました。

画像では分かりにくいですが、かなり登っているのです
563m三角点までの道は、明らかに稜線の小ピークを避けて通っていました。その方が歩きやすいからです。
しかし大鍋への分岐を過ぎた辺りから、一つ一つの瘤というかコルを越えるようにして道がついているようになっています。

ここもかなりの登りです 疲れる!
私もだいぶ疲れてきており、平坦な道ならさっさと歩くことができるのですが、登りになるととたんに速度が落ち、ふうふう言いながら腰を曲げて歩くことになります。大丈夫なのか、私…。

さっき誰かが歩いたのか、という踏み跡が付いていました
登ったなー、と思ったら、今度は下りです。だんだんアップダウンがきつくなってきました。

気を抜くと足を滑らせてしまいそうな下り坂です

遅い尾根を下ります だんだんスリルを味わえるようになってきました
一カ所、(これは迷いやすいかも…)と思われる地点がありました。右手から別の道が合流するような感じに広くなっていて、尾根が角度にして120度ほど、左に折れています。
踏み跡は続いているので大丈夫なのですが、少し不安を覚えたことも確かです。
徐々に変わってきた道の表情。 はたして“大鍋越え”までは、あとどのくらいの距離と時間がかかるのでしょうか。

唯一、迷いやすいと言う場所はここでしょう あの木の赤ペンキは何でしょう
それにしてもこのアップダウンは何でしょう。町と町を結ぶ道ですから、歩いたのは男性ばかりの旅人だけではないでしょう。女性や子供も歩いたはずですから、なるべく凸凹は避けて道を作るのが妥当です。しかしこの高低差をそのまま道にした有様はありえないナイ! そう思います。
ここで一つ、異変がありました。所々に立ててあるコンクリートのポール、境界石標が急に派手になりました。毒々しい赤ペンキで彩られたそれは、「決して自分を見落とすな!」と主張しています。何なのでしょう。山の深部に入ったので、迷わないように画策してあるのでしょうか。

何だか毒々しい赤色を塗ってあります
そうしていくつかのアップダウンを繰り返してきました。
この先はどんなかな、と思って下り坂を右に回り込もうとすると…、そこは大岩に挟まれた急峻な下り坂になっていました。
こ、こんな急転直下があろうとは!

おおー、落ちていく感じ!
ここに来て、急に道がその表情を変えました。
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道が、その穏やかだった表情を一気に変えたのです。
道の傍らには、戸惑う私を見送るように、またしても毒々しいほどに赤くペンキを塗られた境界石標がこちらを見ています。
「界」の字が「魔界」を示唆しているようにすら感じられます。

この赤い石標は何の境界を示しているのでしょうが
一気に表情を変えた八木山−池代の道。ここからどうなるのでしょう?!
八木山から池代へ〜その四へ続く
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