葉

下大沢から峠を目指して
探索 2008年4月5日   
 
峠を目指して
 石頭さんのおられる峠から相玉への道は、歩いてみて様子が分かりました。下大沢からのアクセスはよい峠でありますので、まずは最大の関心事である峠から相玉までの古道を歩いてみたのです。そちらは既に当サイトで紹介した通りです。

 では蓮台寺から下大沢の集落を通って峠に至る道はどのような様子なのでしょう。今回の探索は、その経路を辿るこを目的としました。

 私にとって一つ明確でないことがあります。それは、石頭さんのある峠から下大沢側に下る道は、車道を横切った後、一体どこを下って蓮台寺の方に至っているのか、ということです。

 今回、まず初めに、車道と交差しながら下大沢の集落を貫いて峠に至る道があると仮定し、歩いていきました。

大沢の分岐から
 蓮台寺の集落を通って大沢のバス回し場に行き、そこから分岐を右に行きます。今回の出発点はここです。


          上大沢と下大沢の分岐するところ ここを真っ直ぐ進みます

蓮台寺鉱山の名残
 まもなく蓮台寺鉱山の猿喰坑(さるくいこう)跡があります。3年前の補強工事によって坑口は見えにくくなりました。同時に、対岸にあった作業小屋も取り壊され、小屋に引き込まれていたレールもいつの間にか撤去されました。


         右の石垣に見える凸部は、トロ線の橋脚を支えていた基礎です

 しかし坑口から出ている温泉パイプ(すでに稼働は終了していますが)を支えている跨路橋に、当時のトロッコのレールが使われているんです。
 レールはそのまま沢を渡り、対岸の手選鉱場へと引き込まれた後、ズリと選別されて港へと運ばれていました。3,4年前にはこの辺りをしばしば探索したものでした。懐かしいです(遠くを見る目)。


            市道を跨ぐトロ線を再利用したパイプライン


         かつてはこの猿喰坑からバッテリーロコが出入りしていたそうです


            廃なトロ線レール なぜかわくわくしていまいます

ファニーな交通安全看板
 関係のない話題ですが、ここ下大沢の道には、交通安全を呼びかける手作りの看板がたくさん立っています。これらを見るだけでも下大沢に来る価値があるかも。


           まさかこんなオートバイは走って来ないでしょうけど


        3D的な構図が素敵! これで地区内の交通事故はゼロでしょう

分岐あり
 左手に並ぶ住宅の前を通り過ぎた後、こうした分岐があります。右手が古い方の道だと思うのですが、どうでしょうか。もちろん、50mほど上りますと、左手から行く自動車道と合流します。


         雰囲気からして、右が古い方の道だと思います

 上の写真の中央やや右に窪んだ空が見えますが、あの辺りが下大沢の集落に向かう洞です。しかしそちらはすでに家が建っていますので、歩いて洞を上っていく道は見られません。この後、車道は大きく左に曲がり、沢に向かって伸びていきます。

 ここで一つ気になることがあります。この集落を通り過ぎた辺りで、北側に一軒の民家があるのですが、そちらに登っていく歩道があるのです。一見、その細い道は民家の裏に至る私道のような感じですが、ひょっとしてこの道も峠の方に通じているのではないか、というように感じられます。そちらの探索もいずれしなければならないと思います。

 今回は車道を道なりに上っていくことにします。やがて沢の上流に温泉の櫓があり、そこから一筋の細い道が上がっていくのが見えます。


           沢の右が温泉の櫓で、対岸に細い道がついています

 この道は、そのまま下大沢の集落に向かっている古道としてとらえてよいのではないでしょうか。


         ようやく古道が現れました 下大沢に行く本来の道でしょう


            いい雰囲気で集落へと登っていきます


               遙か上に、左から回り込んだ車道が見えます

 コンクリートで簡易舗装された道を上っていきます。右手には田んぼの跡が認められます。廃屋も一軒あり、水車小屋でもあったのかな、などと想像をふくらめてしまいます。

 温泉の櫓から100mほど進んだところで、民家に突き当たります。そこを左に折れると、すぐに車道と合流します。


               一軒の民家に突き当たります

意外な展開
 上の写真の道を左に登ると目の前が下大沢の中心部に至る車道になっているのですが、今回は何となく何かに引かれるように右へと歩きました。考えてみれば、これがこれから展開される不思議な体験の発端だったのです。それも道の魅力と言えるでしょう。あるいは下大沢という土地の持つ、ある種特別な地域性なのかもしれませんが…。


             車道に背を向けて東に向かいます

 上の画像では、私の背中の方に車道があります。当然、この歩道を歩いていけばやがて沢沿いに集落に入っていくもの、と踏んでいきました。
 
 少し行くと、道の先には廃屋がありました。人が去って15年から20年は経っているのではないでしょうか。
 玄関まで車が入ることができない場所にあるため、生活の場を他所に移したのでしょうか。あるいは都会に出た子供を頼って、移り住んでいったのかもしれません。


               道の先に廃屋が2軒、残っていました

下大沢の“不思議ワールド”へ
 (何だ、この道は個人宅に行くための私道だったのか…)と思って引き返そうとした時、まだ道ははっきりとした形を保ったままさらに伸びていくのが見えました。いえ、むしろ私を誘うかのように、はっきりとその姿を現し、日の当たる南の方に私を導き始めたのです。


                私を森へと誘う道 一体どこへ…

 しかし道は集落からは離れる方向です。よいのでしょうか? でも、私の足はもう止まりません。この先に何があるのか、引っ張られるようにして歩いていきました。

 竹藪の中を通り過ぎると、景色のよいところに出ました。ずっと下界まで見下ろすことができます。視線を落とすと、その手前には、現在もきちんと栽培が行われている夏みかんの畑が広がっていました。春の日差しをみかん色の肌が鮮やかに跳ね返しています。


             夏みかん畑が本来の姿をしています

(なあんだ、やっぱりこの道は畑に行くための道だったんだ)と思ったのもつかの間、みかん畑を右に見て、まだ道は続いているではありませんか。足元に咲くタンポポの花が、私に「もっと行ってごらんよ。この先に何があるのか、見に行ってごらん。」と囁いているように思い、私はさらに“不思議道”を登っていきました。


           まだ道は続いています かなりの上り坂になってきました

 いったいこの道はどこにつながっているのでしょう。峠直下のまだ歩かぬ道に通じているのでしょうか。集落からはどんどん離れていきます。私の頭は混乱してきました。今、私はどこにいるというのでしょう。

やがて道は再び森の中に入りました。山道特有のこうしたU字形の姿をして、さらに上に延びています。


         何だかちょっと不気味な雰囲気にもなってきました

もう完全に道は集落から離れています。峠への道は、こんなに家々から遠いところを通っているのでしょうか。これではまるでバイパスではありませんか。

だいぶ標高が上がったところで、道はやや細くなってきました。木立の向こうには山並みが続いているだけです。


           いろんな表情を見せながら道は登っていきます

消えた道
 そして・・・、やがて道は消えました。

 しかし何かあるはずです。私が道を見失っているだけかもしれません。

 私を呼ぶような声を感じ、ごつごつした岩が露出した稜線を強引に登っていきます。辺りは暗い森となり、もはや私は自分のいる場所が下大沢のどの辺りなのか、という思いもとうになくなりました。

そして大きな岩をいくつも乗り越えていった時・・・、遂にその神様は現れました。あたかもN極とS極をもって引き合う2つの磁石がぎりぎりまで近づいた時にその磁力が最高潮に達するように、私をここまで引きつけていたもの。

呼んでいたのは、この2つの神様だったのです。


             ひときわ高いところに何かがいらっしゃる!

神々の鎮座する里
 近づいてみると、それは二つの石祠ではありませんか。私をここまで導いた神の姿を目の当たりにして、私はしばし立ちすくむしかありませんでした。


             高く深い森の奥で私を呼んでいた神々です

 具体的に何という神様を祀った石祠かは分かりません。形と大きさはごく一般的な祠ですが、向かって右の祠は、鍵穴には特徴があるといえるでしょう。

 しかし考えてみれば、大沢の里は下田でもっとも標高の高い所に位置する集落といって過言ではないでしょう。空に一番近い山里で、人々はさらに高いところに神様を祀り、暮らしを守っていただいているのです。

そういえば、KAZU氏の山行レポートの中にも、この上の稜線に並ぶ頂きには様々な石造神仏が祀られていると報じられています。
下田で一番空に近い神々の里。それが大沢の集落なのかもしれません。
 
さらに続く道
 消えたと思った道は、頂の向こうに続いていました。石祠のある頂を左に迂回して奥に延びているのです。


              人が一人歩けるほどの道が続いていました

 さてどうしたものか、と思いましたが、どんどん上に行けば、謎の石柱のあるミカン畑へ通じる林道に突き当たることは想像できましたので、とにかく北上を続けることにしました。  

 ほんの少し歩きますと、東西に延びる歩道に突き当たりました。東に行くと、一つ隣の洞に降りるような感じです。ここは左に進み、下大沢の集落に近づくように歩を進めることにしました。


              道が水平になって西を向き始めました

ギョッとする光景
 道は斜面を登るのをやめ、山の斜面を水平に進みます。
 左は放置された畑、右は竹やぶになっています。 タケノコの盗掘を防ぐためでしょうか、道との境目から少し高いところに、ずっとロープが張ってあります。

 少し行くと、何やら妙な異形のモノが竹藪からぶら下がっています。

 それは、男性の衣服! 

 KAZU氏が山中で見つけたのは「透明美人」らしいのですが、私は「透明美男子」を見つけたのかと震えが来ました。しかしそれは、ハンガーに掛けられた作業着でした。案山子のつもりなのでしょう。それにしても驚かすものです。怖かったので、写真はありません。

 間もなく、道は下りとなりました。ここで下ってしまっては、あの峠直下の林道へは通事ないのではないでしょうか。 不安になりましたが、行ってみました。じきに左手下に農作業の小屋が見えました。もう里に下りたのでしょうか?

 しかしまだ山道は続きました。小さな涸れ沢を渡り、ミカン畑を横切りますと、行く手にニャンがいるではありませんか。この下の飼いニャンかと思いました。呼んでみましたが、逃げるばかりで、あっという間に姿を消してしまいました。残念。すると、右手に墓所が現れました。


           道が下って、家が見えました 里に下りたのでしょうか?

 この地から出征して戦死した陸軍歩兵さんのお墓のようです。さっきのニャンは、私にお墓の所在を知らせたのでしょうか。もしかして墓守ニャンかな?


                 振り返ってみたところです 

 お墓があったからには民家も近いと思ったのですが、まだここは山の中でした。道は細く、ずっと下っています。これではお墓参りに来るのも大変でしょう。ふるさとを高いところから見守ってほしいから、あのような奥まった場所に墓所を選んだのでしょうか。

里に出た!
 道はどんどん下りました。そして、あっと驚くところに出たのです。ここは?!


            やっと里に出ました ここはどこ・・・?

 山道は、下大沢のこんなところに出ました。ここは、下大沢の出荷場前の分岐を東に向かって上ってきた、集落の中心に近いところです。私は下大沢の入り口から東をぐるっと迂回してここに来たのでした。あの峠直下の交差点には出なかったのです。

集落では、色とりどりの春の花が咲き、少し早い鯉のぼりが風に泳いでいます。もうそんな季節なんですね。


           ちょっと気の早い鯉のぼりが風を受けていました

 私の歩いてきた道は、どうやら主街道ではなかったようです。畑仕事や山の手入れのために使われていた間道でしょう。それでも古道には変わりがないでしょうけれども。

陽光を浴びて
 今日は時間が足りないので、家々の間を下りながら、下大沢の様子を見て歩くことにしました。

集落では、山の南斜面を切り開いて家屋が一定の間隔を置いて点在しています。いずれも日の光をいっぱいに浴びるような向きに建てられています。

その家々の間を、実は古道が貫いています。しかし車道に寸断されたところがあり、辿って歩くことは難しくなっています。


            夏みかん畑の傍らを上ってくる古道です

上の写真の道はみかん畑の脇を上がっていく道ですが、車道の路盤を作るための石垣に遮られています。

 また、下の写真は、もう少し下にある道です。ひっそりと家の前を通り、曲がりくねる車道をつなぐ近道として機能しているようです。


             今でも歩くことのできる道も残っています

 ゆっくり下って帰ることにしました。神明神社の参道に建つ鳥居が高いところに見えます。咲き誇るように白い花をつけているのは、桜でしょう。


      神明神社の鳥居が見えますか 社殿はずっと上に登ったところにあります

 神社の参道と向かい合うようにして東に入る道を行きますと、お地蔵様が六尊、並んでいます。一見して、六地蔵様であることが分かります。一尊だけ形が違いますけど…。

 その背中側の高いところにも、お地蔵様や墓石が並んでいます。ここにはかつてお寺があったと伝えられています。何というお寺があったかは知りませんが(今度どなたかに聞いてみることにしましょう)、山一つ隔てた横川の太梅寺の檀家になっている家が多いと聞きますので、かなり昔に廃されたお寺なのかもしれません。


         梅の花は何も語らず、ただ墓石を守るように咲いていました

出荷場の前を下り、温泉櫓から上がってくる道に近いところまで来ました。下から振り返って、集落を見上げます。今、車道は左側についていますが、元の道は、右のみかん畑の中を通っていたのではないでしょうか。


       下の方から見上げた下大沢の集落 これはまだ下の方の地区です

車道から見下ろしますと、こんな簡易橋が渡してあります。今は畑道として使われているだけでしょう。


              この木橋も古道の名残かもしれません

 今日の出発点である温泉櫓へと下ろうとした時、少し高いところに2つの石祠が立っているのに気がつきました。車でもバイクでも何度か走った道なのに、初めて見ました。乗り物を運転していると気がつかないものなんですね。


              ほら、小さな祠がありますよ


          かわいらしいキノコのような祠です 何の神様でしょうね

下大沢の里を後にして
 今回の探索はここまでです。

 次回は、峠直下の交差点から道を下ってみたいと思います。峠への主街道は、今日出会った下大沢を見下ろす石祠の、もっと東を通っているように思います。そこにはどんな道が通っているのでしょう。そしてそこに峠への道があるなら、どうして家々が並ぶ集落の中を通らないで山へ向かうのでしょう。そのあたりを探ってみたいと思います。 実は既に目星をつけた洞があるのです。早く歩いてみたいな〜。

蓮台寺の枝垂れ桃
 伊豆新聞や小林テレビなどで紹介されたとおり、ちょうど蓮台寺では枝垂れ桃が満開になっていました。個人宅が私的に植えた桃の木ですが、少し離れたところに駐車場が用意され、公開されています。中には人力車が停まり、桜ならぬ桃の花見会が行われていました。


          雪のようにふんわりと咲いている枝垂れ桃です


               これはまさに桃源郷・・・

                                             
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