葉

もう一つの沢田石丁場
探索 2007年11月24日   
 
再訪果たす
 河津町は沢田石の田中側丁場探索に失望した私たちは、翌週、再びかの地を訪れた。まだ有るはずの、丁場の姿をこの目で見るためである。
 今回もS川隊長の地道でありながら綿密かつ大胆な事前調査によって、その分布域は押さえてある。それは何と、沢田鉱山へ行く途中の林道から見える坑口を通り過ぎて奥に入ったところだという。

「沢田石だから、産地は沢田だよ。田中側に丁場があったら、“沢田石”とは言わないだろう?」とは、先週ちょっと話を聞いた地場野菜売り場の長老氏が話した言葉である。あくまで沢田石は沢田地区で切り出された石なのである。

下の画像は、その沢田地区の林道を歩いて目的地に向かっている場面である。沢田鉱山への道から分岐した林道を進んでいる。



今回の探索チームを構成するのは、S川隊長、初参加のデヒ氏、そしていつものH川女史とO串女史、そして私、である。デヒ氏は東京からYAMAHAフォルツァをぶっ飛ばしてきて来豆してのご参加。お疲れさまです。

地震計設置済み
 「この道下に、電線を引き込んだ、アルミのドアのある丁場があるよ。たぶん地震計を設置してあるんだと思うんだけど…。」

 アルミのドアがついているということは、そこに頻繁に出入りすることを容易にするため、であろう。ということは、何らかの研究調査施設として利用されていることを示している。硬い岩盤を利用しての地震研究施設は、思ったより多く河津地区に設置されているようだ。

 下の写真をよく見ていただきたい。ドアの右に、祠がある。坑内での安全を祈願するための“山神様”であろう。ということは、それなりの長期で大規模な採石がここで行われていたと言えはしまいか。これは期待できる! が、入ることができないのではしかたがないけど…。



前菜あるいはアミューズ
 林道に這い上がり、さらに奥へと進む。なかなかよい雰囲気のある舗装林道だ。どこまで行っているのだろうか。



所々に、林道から分岐するソリ道跡がある。

そのうちの一つを、隊長の後について登ってみた。するとこのように山肌を深く切り進んだ丁場があった。空中にぽっかりと黒い口を開けた空間が、私たちの前に姿を現した。



この丁場は、二段に掘り進められているという。今私たちが立っているのは、ズリや土砂や落ち葉で埋もれてしまった下段の坑道である。したがって、内部に進入しようとすると、このような姿勢を強いられることになる。



「内部は地底湖になっているよ。」

S川隊長の言葉の通り、私も屈んで中を見たところ、深く黒い水が湛えられていた。

プレステージへ
「まだまだこれらは前菜だよ〜。」

と、S川隊長の言葉。

「え〜? じゃあ、いつメインディッシュが出てくるの〜?」

と、不満げな面々。いけない、いけない! それではまるで隊長に“おんぶに抱っこ”だ。自分たちでも目をさらのようにして丁場を探しながら行かないとダメだ! (←って、私、いつも十分におんぶに抱っこ状態なんですよネー)


          この枝道の先に何がある? 何かありそう!

「この、さあ何が出てくる〜? って言う雰囲気、いいだろ〜?」

明らかに人為による石積みがわたしたちを“驚異の丁場ワールド”に誘う。このワクワクする感じ、もう病みつきである。



上の写真の突きあたり周辺では、いくつかの坑口を確認することができた。かなり広範囲に丁場が点在しているようである。

「さあ、いよいよメインディッシュに近づいてきたゾー。」

S川隊長の言葉に期待は高まる。

「この先にある丁場にはソリが残っているから、鈴ねこ見てきなよ。」

な、何イ〜、ソリが残っている?! それは素晴らしい! でもトロッコではないのか? ソリって、どんなソリだろう。

ソリ、現存す!
西向きの斜面をトラバースするようにしてさらに歩を進めると、その先に大きく開口した丁場があった! これは大きい!



こんなに大きな丁場がまだあったんだ。というより、もっとあるのではないか? そしてS川隊長の言葉通り、二つのソリがそこには残されていた。



それぞれの細かい使い方は分からないが、右の短い方のソリは、寝姿山遊歩道脇にある作業小屋で見たことのあるそれにそっくりだ。(ということは、高根山の丁場からも石はソリで運ばれた、ということが言えそうだ。やはりトロッコは高根丁場では使われていなかったのか…)

一方、左側のソリは、思い石を運び出すのに使ったにしては華奢ではないか。石を積んだらバキッと折れてしまいそうだが…。あるいは他の部品と組み合わせて使ったのかも。

さらに進むと、私たちの前には、こうした谷が現れた。はるか下には、歩道が見える。電線も引き込まれているようだが、やはり地震計が設置されているのだろうか。



谷底へ滑落する恐怖と戦いながら、谷を奥へと攻め入った。

するとそこには坑堀りの丁場が私たちを静かに待っているのだった。



見上げるような切り立った崖。しかしそれは自然のそれではない。人の手によって切り開かれた、石丁場の翼壁なのだ。



いよいよメインディッシュへ
 いよいよ内部に進入する。引き込まれた電線は、地震計の電力線か。入り口に積まれた薪は、かつてここで生活していた人の遺留品?



いったいこの“丁場ドーム”からは何本、何トンの沢田石が切り出されたのだろう。まさに驚異の世界である。



後から来た仲間も、丁場全体を見上げて感嘆の声を上げている。



入り口広場に残されていた石の桶は、ノミを研ぐ水を溜めていたのか。下田市中村(赤んぼ地主さんちの)丁場跡にも似たような石桶が残っている。


            大きさは碁盤より一回り大きいぐらいか

奥にいるのはO串女史である。人の背とこの場所の大きさを比べていただきたい。

ここから坑道が奥に延び、さらにいくつもの石室が私たちを待っていた。



最初の石室は、蒼というか、緑の水が深く湛えられていた。思わずその底へと引き込まれてしまいそうなくらい、不思議な雰囲気がある。



実はこの日持ってきたカメラは十分に使いこなすことができず、撮影した写真の殆どが失敗していた。すなわち、ストロボが光量不足だったりピンぼけだったりする写真しか撮れなかったのだ。悲しい…。もっと研究しなければダメだ。私としては、最近伊豆にも調査範囲を広げた「遺構調査隊」のような写真が撮りたいのだが。



 丁場の中は複雑に枝道ができていて、それぞれに石を切りだした跡が石室になっている。そして私たちはU字型に作られた坑道を辿って、数mほど離れた別の坑口から外に出た。

次なる丁場へ

「次、移動するよ!」

隊長の言葉によって、谷底にあるという別の丁場に移ることにした。



倒壊した枯れ竹の斜面を移動していく。竹の枯れた枝で目をつつきそうな、危険な移動だ。十分に気をつけよう。

天然素材?
 閑話休題。この時、H川女史は「あらいやだ、私、リュックをどこに置いたかしら。」と戸惑っていた。

O串女史が「さっきの入り口に置いてあるじゃないの。取りに行ってきたら? そこを右に真っ直ぐ行けば、きっとすぐにあるわよ。」とアドバイス。H川女史は「そうね、行ってくるわ。」と、その言葉通りに歩いていった。

しかし、いいのか? H川女史といえば、穴菌隊の中で有名な天然方向音○。決して彼女に道を尋ねてはならない。また、彼女に道を教えても、まともに聞いて行けると思ってはならない。

案の定、間もなく彼女の素っ頓狂な声が谷間に響いた。

「あ、すごいすごい! みんなーっ! ここに大きな入り口があるわよーっ!」

しかし、穴菌隊の誰もその声に反応しなかった。というより、みんながその場に固まってしまった。

だって、H川女史さん、私たちはたった今その穴から入って、中を見てきたんだよ… (; ̄д ̄)↓↓

かくして彼女を語る逸話がまた一つ増えたのだった。

丁場探索最終章
 この日は午後12時半までに下田市民文化会館へ行かなければならない私は、そろそろ焦り始めていた。ちょっとこのペースでは間に合わないかも。しかし目の前にこんな坑道が口を開けていたのでは、中を覗かずにはいかないのだ。



 この辺りの丁場は二段、三段の階層を持って掘られているようなイメージを与える。それぞれが奥でつながっていることはないようだが、資源を活用するため、幾重にも掘り進めたのだろう。

 下の坑口は、今回最後に入った丁場跡である。すでに搬出路は半ば石や土砂で埋まっているが、往時の規模を想像するには十分な景観を保っている。



やはり内部には電線が引き込まれている。しかしこの様子からすると、これは照明用の引き込み線のようだ。この排水路のような水溜まりを越えていくと、坑道はさらに奥へと続いていることが分かった(私は未進入だが)。

ここでも私はカメラの操作に難儀し、ろくな写真を撮ることができなかった。せっかく三脚を持っていったのにサー。



結局、しっかり撮れたのは、上下2枚の写真だけだった。これでは困る。トホホのホ、である。



タイムリミット
 いよいよ撤収の時刻になった。11:50、電線とその下に延びる踏み跡を辿って、半ば強引に山を下った。すると、何とちょうど林道に置いてきたハチ六号の真上に出たのだった。



坑道に単独潜入していたS川隊長も、随行していたデヒ氏も戻ってきた。ここで5人は今日の成果が得られたことに感謝しつつ、再会を約束してそれぞれの道へと戻ったのであった。

S川隊長さん、今回もありがとね。そして、デヒさん、次回もまたご一緒してねー(F501持参で!)。私もデジキスをもっと旨く使えるように練習しておきますので〜。
                                             
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