葉

東伊豆町大川に江戸城築城の石切場を探す〜2
探索 2009年1月12日   
 
谷戸山の石切場へ
 次に車で移動して谷戸山の西にある沢に入りました。ここには、大川に限らず東伊豆町で最もたくさんの築城石が切り出された“谷戸山(やとやま)”の石切場があります。

 町道から林道に入りますと、すぐそこに山から引き出された角石が置いてあります。作りはやや荒く、整形する途中の石かと思いましたが、資料によりますとこの石はこれで完成した状態なのだそうです。



右にみかん畑、左に竹藪を見て林道に入っていきます。間もなく右手に山に入る踏み跡がありますので、倒木をくぐって山に入ります。



一歩山に踏み入れますと、そこには、あるある、矢穴(石を割るために開けた穴)が残った大きな石がごろごろと転がっています。矢穴は、石の縁に一定の深さと間隔で残っています。

 石を割る時は、このように矢穴を石に開け、そこに鉄のくさびを1本ずつ打ち込みます。それらのくさびを玄能で均一に打ち込んでいくと、やがて石が割れるそうです。
 それでも割れない石は、鉄のくさびの代わりに木のくさびを打ち込みます。そして水を注いで木を膨張させると、ひと晩経つ頃に石は割れたそうです。


          これはかなりきれいに整形された石です

作業を途中でやめたと思われる石も見られます。




鬼の割った石か?
 歩き始めて間もなく、目の前、いえ、頭の上に、見上げるような巨石が現れました。断面が三角形になっており、縁にくさびの跡がたくさん残っています。今にもこちらにごろんと転がってきそうに山肌に引っかかっています。



右に回り込んで、横から見てみました。石の左半分が直線的に切り落とされています。



想像するに、元は元はこんな風な形をしていたのではないでしょうか。



まるで鬼が怪力で巨石を割ったような感じすらするのですが、これは間違いなく石工が道具と人力で割った石なのです。

The 築城石ワールド
 この辺りは、夥しい数の築城石が散乱しています。一つ一つ見て回っていても、全然飽きません。石の形を見たりくさびの跡を数えたりすることに、時間が経つのも忘れて夢中になってしまいます。



分銅の刻印石
 上の画像の石には、こんな御紋が彫ってあります。“分銅紋”と呼ばれている御紋です。



 調査によりますと、これはどうも出雲国松江藩主堀尾山城守が切り出していた石らしい、ということが分かっているそうです。いるそうです、というのは古文書などの資料が残っていないためにはっきりと言えないからです。
 どのくらいの量の石をどのくらいの期間に渡って切り出していたか、というような記録を残した古文書が、東伊豆町にはほとんど残っていないそうです。というのは、江戸時代以降、お茶を飲む文化が一般に広まったのですが、そのお茶を焙煎するための火器に「ほうろ」という道具を使いました。そのほうろの火の焚き付けには和紙が最適であったため、文書が燃やされてしまったのだそうです。アチョーッ!!!

巨石で埋もれた沢
 歩けば歩くだけ、たくさんの石が見つかります。
 その中には人が数人で手をつないで囲むことができるような巨石もあります。こうした石を割って急な斜面を下ろし、港から船に積み込んで江戸まで運ぶのですから、危険な作業であったことでしょう。それが400年前の江戸初期の話なのですから、昔の人の知恵と努力にはすごいものがあります。西国大名は徳川幕府に忠誠を尽くす意志があることを示すため、こうした危険で経費のかかる作業に従事しました。そこから江戸幕府の構造もおのずと見えてくるのです。





















 調査によりますと、この谷戸山と、隣接する谷戸ノ入の石切場には、分銅紋が刻まれた石が114個あるそうです。その殆どが他から見やすいように南側の面に彫られているそうです。






これはくさびの跡がひときわ大きくくっきりと残っています。くさびを打ち込んだ跡は、慶長時代から下るにしたがって少しずつ小さく浅くなるそうです。初期の頃にはかなり熱を入れて採石していたということでしょう。江戸城改築の意気込みが分かるというものです。





















きたない長靴をお見せして恐縮ですが、石の上に立ってみました。下は見下ろすような斜面です。こうした斜面を、切り出した石を引いて港まで下ろしていったのです。いかにそれが大変な作業であったかは、想像に難くありません。


















 数々の築城石を見て回りましたが、全然見飽きません。それどころか、山を登って一つ石を見つけるたびにお宝を発見したような気持ちになってしまいました。

そうして山の上の方に至った私の目の前に、さらに驚くような石が現れたのです。


  「東伊豆町大川に江戸城築城石の石切場を探す〜3」へ


                                             
トップ アイコン
トップ

葉