葉

小杉原の龍爪神社を訪ねる
戦前まで深く信仰された弾避けの神様   
探訪2001年6月3日
 
 かつて須郷でサイの神を探していて、大岩の上に鎮座する龍爪(りゅうそう)さんに出会った時、その元宮が松崎町小杉原の龍爪神社であることは既に書きました。そこで、今度はその小杉原の龍爪神社を訪ねてみました。
 車で婆娑羅峠を越え、ほんの数分下りますと、小杉原の集落に入ります。大きな道路標識がある所の左に、旧県道との交差点があります。その目の前に、『龍爪神社登山口』という道標が立っています。今回は、代々この龍爪神社のお世話をしておられるという旧家の方に道案内をしていただきました。

            
                    龍爪神社入り口の道標

 道標のある分岐から北に入り、県道と並行した歩道(ほとんど民家の庭先)を登ります。初夏ですので既に草が生い茂っていますが、じきに石製の鳥居のある登り口に到達します。おやおや、こんなところに鳥居があったとは気がつきませんでした。何度もこの県道は行き来していたのに、やはり気にしていないと目に入らないということはあるのですね。

 実は先ほど一人で神社を訪ねてみようと思ったのですが、まったく入り口が分からずに途方に暮れたものですから、急遽、この地で旧家を継ぐ元同僚のYさんに案内をお願いした次第なのです。いきなりお邪魔したにもかかわらず、快く案内をしてくださいました。感謝しております。
 私が「どのあたりに神社があるのですか?」と訪ねますと、「あの山の上辺りですよ。」と、小高い山のてっぺんを指し示すではありませんか。(山の上って…?)と、この時はまだ半信半疑だったのですが、まさかあんなところに神社があろうとは…。では、参道(というか登山道)を案内しましょう。

 県道からすぐ見えるところに、このような鳥居があります。左右に大きな石灯籠も立っています。いずれも昭和前期に立てられたと示す銘が彫ってあります。鳥居をくぐれば草は茂っていませんので、歩きやすいです。でも、道は険しいので、覚悟していってください。(本当)


 道はすぐにつづら折りの坂道となり、ぐんぐん登っていきます。行けども行けども社殿は見えません。一人で来ていたら、(こんな所に神社なんかあるはずがない!)と思って引き返してしまうかもしれません。 
 やがて道は山の斜面を離れ、稜線を歩くようになります。それも左右に切り立った、かなり険しい道となります。また、あたりにはごつごつした大きな自然石が随所に見られます。ときには自然石に階段を刻んで歩くようにしたところもあります。元はこの山全体が岩山だったのでしょう。そう言えば、須郷の龍爪さんも大きな岩の上にありました。ここでのポイントは、“巨岩”ですね。岩山が雄々しいイメージを湧かせ、弾避けの御利益を生んだと言ってよさそうです。
 いつしか県道を行く車の音も聞こえなくなりました。かなり上まで登ってきましたんですね。木々の梢は黄緑色の葉をつけ、優しく風にそよいでいます。この参道がかつてはたくさんの参拝客でにぎわったとは、いまでは山肌の岩だけが知るのみでしょう。
 そんなことを考えながら登っていきますと、やっと社殿らしき建物が見えました。
 境内に立ちますと、あれ? 建物が神社らしくありません。なんだか普通の小屋風の建物が建っていますが、これが龍爪神社なのでしょうか。後から追いついてきたYさんに尋ねますと、「この戸を開けてください。中を掃除しますので。」とおっしゃいます。(いいのかなあ…。)と思いながら戸を開けますと、おお、木製の祠があります。これが小杉原の龍爪さんなんですね。
 
 さっそくYさんは、てきぱきと掃き掃除を始められました。私は、懐中電灯で中を照らすだけ。ごめんなさい。内部の壁には、明治期にこの社を改築したときに寄付をした人々の名と寄付金額を記した札が並んでいました。小杉原はもちろん、池代、加増野、岩科、八木山ほか、南伊豆の地名もありました。金額は、二十銭から数円まで、様々でした。
 掃除が一段落した後、Yさんからいろいろなお話を伺いました。それは、こんなお話でした。

 ・そもそもこの神社は、この地の3人の男性が遠くからご神体を運んでここに祀ったことで開かれたこと。
 ・弾避けの神様であることから、戦前、お祭りの日にはたくさんの人々が参拝に訪れたこと。
 ・その日には、山頂の肩にある広場にたくさんの屋台店が出てにぎわったこと。
 ・近所の人が、子どもの頃にそこに出ていた射的の店で楽しんだ話を聞かせてくれたこと。

 Yさんのお宅では、この参道で店を出す人たちを仕切る役目をしていたそうです。しかし今ではほとんど訪れる人はないそうで、大きな行事としては、4月に小杉原の人たちが集まって清掃活動をするくらいだそうです。須郷の龍爪さんには猟期が終わるとハンター達が集まって無事を感謝するそうですが、ここではそんなこともないのだそうです。

 神社を後にし、県道に立って後ろを振り返りますと、ああ、あのてっぺんまで行って来たのか…、と驚くような高さで山頂が見えました。今は平和になったので忘れられたようなひっそりとしている龍爪神社。ここにも時代の流れの中でたたずむ古道の魂が存在していたのでした。

                          中央下に小さく見える鳥居と龍爪神社の鎮座する山        
                                             
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