婆娑羅の馬車道を下りてから、もう一度又下橋の石仏群を訪ねました。もしかしたら、旧峠で不明になったお地蔵様が下ろされて、そこにあるのかもしれない…、と思ったからです。又下橋は、旧峠から一番近いところにある集落です。もしそこに旧峠付近の地主さんがおられるとしたら、お地蔵様を引き取って安置している可能性もありますものね。
さて、石仏群を改めて見学したあと、思い切って近くの民家を訪ね、旧峠の昔の様子やお地蔵様などの行方について伺ってみました。
そこで聞いたことは『資料』編のインタビューの項に記しましたが、『駒留めの岩』についてどうしても知りたかった私の質問に答えてくださった方が、ぽつりとこうおっしゃいました。
Q・「ところで、旧峠には『駒留めの岩』といって、馬の手綱をくくりつけるため、穴を開けた岩があるそうですが、ご存じですか?』
A・「うーん、そんな岩はないなあ。岩に穴を開けたというなら、馬に水を飲ませるために岩をくり抜いたところがあるよ。大きな岩の下に穴を掘り、そこに岩を伝わってくる天然水を溜めて、馬に飲ませたということだよ。」
ガーン! その話を伺って、私は一瞬にして目の前が開けたような思いがしました。『駒=馬』、『岩に開いた穴=手綱を結ぶ穴』という図式を思い描いていたため、気がつかなかったのです。そう、私は今まで、『手綱をくくりつけるための岩』とばかり自分で決めつけて、勝手に想像した岩を探していましたが、そうではないんです。『駒留め』とは、『馬を留める』のではなく、そこに来ると、水を飲むために『馬が止まってしまう』、すなわち、『馬に飲ませるための水を溜める穴を開けた岩』だったのです。

斜め上から見たところ

横から見たところ

正面から見たところ
これで謎は解けました。『駒留めの岩』は、確かにあったのです。それに気づかなかったのは、私の勉強不足と洞察力のなさによるものでした。しかし、これだからこそ古道探索は楽しい、とも言えます。古道は、次にどんな楽しみをもたらしてくれるのでしょうか。
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