葉

浄蓮鉱山
探索 2007年10月20日   
 
浄蓮鉱山
 ある資料の鉱脈分布図を見ると、伊豆市は浄蓮の滝の東側に「浄蓮鉱山」という表示があり、かなりの範囲で広く鉱脈が分布しているように記してある。そしてその鉱山は既に鉱石コレクターの間ではよく知られており、鉱石採集グループツアーなどが実施されたり、採集の様子を紹介したHPも公開されたりしている。
 10月のある日。いつも鉱山探索ではS川隊長に“おんぶに抱っこ”の私は、たまには自分で探索に先鞭をつけ、ある程度下調べをしてから隊長を誘ってふだんの恩返しをしようと思い、かの地に立った。



 国土地理院の地形図には「浄連」と記されているが、一般的にはここは「浄蓮」と記す。ま、昔は読み同じなら漢字の当て方は似ていればよいので、問題ないのだろう。それだけ歴史のある土地と言うことなのかもしれないしね。

浄蓮地区へ
 私がこれまで見たサイトの浄蓮鉱山のページでは、浄蓮鉱山への行き方を、こう紹介している。

「伊豆市の“天城田の上”のバス停近くの舗装林道を下り、橋で川を渡る。やがて浄蓮の集落が見えてくるので、奥まで歩いていく。山に入ると間もなく集落の墓地がある。その前を通り、なるべく山側へ山側へと歩いていく。するとズリが落ちている。これが“下段のズリ”である。しばらく山を登ると、またズリが落ちている。これが“上段のズリ”である。」と。

 しかしこの記述を読んだだけでは、覚えの悪い私には頭に入らない。うろ覚えのまま1回目の探索に出かけたところ、まるで見当違いのところを歩いてしまい、あえなく失敗してしまった。

アプローチ
 このレポートは2度目の探索時のことである。

 「田の上」のバス停近くの細い道を車で慎重に下る。集落には車で入らない方がよいので、川端に車を置く。手袋をはめ、スパイク長靴を履き、カメラを三脚にセット。したくをして歩いていく。


             この橋の袂に車を置いてきた

 橋を渡るとすぐに登り坂になる。途中、右手の高いところに、丸彫単座像の石仏が鎮座している。浄蓮地区のサイの神であろう。


      丸彫単座像のサイの神様は、伊豆半島中央部に多く見られる(高さ)50cmほど

集落を通って
 坂を上りきると、浄蓮の集落が見えてきた。遠慮しながら通りを行く。左手の家にはワンコがおり、しきりに警戒している。外部から鉱山を探しに来る人がいるのかな? 足早に通り過ぎ、山の中に入った。


              ひっそりと静かに佇む集落

鍵になる言葉は、「お墓の前を通って、山の方へ行く」だ。

 そのお墓はどこだろう。とりあえず沢の右岸を行くことにした。  と、コンクリートの遺構がある。鉱山の施設跡か!?


               立派なコンクリートの遺構である

その遺構の端からは小径が続き、塩ビパイプが通っている。もしかしてトロ線跡を利用して水道パイプを通したのか? わくわく感に胸が震えた。
 

            トロ線跡? それとも水路跡だろうか

 見たのか、もう見つけたのか、浄蓮鉱山の跡を…。早くないか? が、その先を辿っていくと、沢を渡る小さな水路橋があった。うーん、鉱山は沢を渡ってはいけないはずだ。ちょっと方角が違うんだけど…。


             小さな水道橋 沢からの高さは3mぐらいか

  「お墓の前を山側へ…」その言葉通りにすると、水路橋は渡らないはずだ。ここは左に墓地を、右に沢を見ながら、右岸を遡上する。しかし、沢が荒れており、なかなかズリ置き場らしき場所が分からない。


              墓地の前を通り過ぎ、山側へと進んでいった

 途中、沢が大きく崩落している箇所があった。かなり深くえぐれている。これも沢の出水がなした技だろうか。切断されたパイプからは水が白い軌跡を描いている。  


             沢の荒廃を目の当たりにする思いだった

 と、沢がこうした石で埋まっているところがあった。石の見てくれはズリそのものだ。しかし沢の中央に寄り過ぎている。あるいは上流から流されてきたのか。
 しかしズリがあるということは、この先に坑口があるということになる。いいぞ、また期待が膨らんできた。


     これ、ズリですよね、でもなんで枯れ沢の一番低い部分に集積されてるの?

 その次には、こうした施設があった。鉄の蓋は新しいので、最近作られ、まだ管理されているのだろう。鉱山とはどうやら関係のない感じだ。


            真新しい鉄の蓋が周囲と不釣り合いだ

荒れた沢
 (どこに坑口があるのだろう、もうだいぶ上の方に登ってきたが…)と、一抹の不安を覚えながら、さらに登った。今歩いている踏み跡は、ほとんど獣道である。目の前に続く沢は出水によって大きくえぐられている。かなり山は荒廃しているようだ。  


             まだ見ぬ坑口はどこにある〜?!

 と、沢に白い水が注いでいる。いや、水が白いのでなく、水の流れている部分が白く染まっているのだ。


         これはもう「この上に坑口があるよ」のサインに違いない」

坑口跡発見!
 これは尋常ではない。何か溶解物を含んだ水が流れているに違いない。もしかして坑道から流れ出る湧水かも!
 ぬかるむ泥に足を滑らせながら、這うようにして崖を登った。するとそこにはコンクリートの小さな取水槽があり、ほうら、来た! その奥に逸圧された坑口が見てとれた。


         わざわざこんな山中に施設を作るのには訳があるんだろうネ、それは何?


     潰れてはいるが、明らかに私には坑口が見えている いやホントよ

 坑口に向かって左には、50坪ほどの平場がある。その平場に気づいた時、ちょうど私の目の前を一頭の若鹿が斜面を駆け上がっていった。やはり私の歩いてきた道は獣道であったのだろう。  

 坑口を右に見て引き続き斜面を登ると、坑口の上に、殆ど埋まった状態の竪坑が見えた。

諦め そして下降
 さらに沢を登り詰めようと思ったが、どうもここから先には何もないような印象を受ける。足元はズルズル滑る斜面。目で追う谷の奥は、屏風のような荒れた崖。やめよう、もうここで…。志を貫徹せぬまま、下ることにした。


         うーん、この上にはどうみても坑口はないよなぁ

 今度は沢の左岸を下りた。先の坑口から湧水を引いている塩ビパイプがそこには残っていた。今度はこれを辿ってみようと思ったのだ。
 すると、パイプに沿って、明らかな道があった。もしかしたら、これは先ほど見つけた坑口から出る鉱石を運搬したトロッコの線路跡ではないだろうか。そしてさっきの坑口横の平場は 作業小屋だったとか…。


      振り返って撮影した  トロ道? それともソリ道? なかなかそそるものがある

 こうして私は、再び墓地の近くまで戻った。 (ひょっとしたら墓地の裏にズリ捨て場や坑口があるのかもしれない…)そう思って、墓地の周辺も探索した。しかし、そこは緩やかな檜林が広がるだけで、とても鉱山の雰囲気はなかった。  

水道橋を渡って
 もしかして向こうの谷側にあるのかもしれない。水路橋も、ひょっとしたらトロ線跡に架けられたのかもしれないではないか!? そう思って、一つ北側の沢を探すことにした。
 崩落しないことを祈りながら、えっちらおっちら、よちよちと水道橋を渡った。ちょっとだけ、“山行が”の気分かな?


         ヒイイ、そんなに高くはないけど、ちょっと恐い〜

 その先には、きちんとした歩道があった。水道橋は、灌漑用水を引いていたようだ。飲料水用か、1本の塩ビパイプも通っている。


            このカーブを曲がった先には何がある?!

ズリ、坑口、そして平場、さらに…
 そして、尾根をぐるりと回り込んだその先には…、おお、これはズリではないか。かなり細かいが、ズリである。こっちがズリ山だったのかなあ。


      細かいけど、ズリだよね 沢田鉱山にもこんなのが沢山あったもん

 お、向こうに何やら窪みが…。坑口か? そうだ、坑口だ。こっちに坑口があったんだ! でもズリのあるという墓地とは、方向がかなり違うんだけど…。  しかも坑口ほとんど埋没している。


       潰れた坑口があった! 試掘跡? それともこっちが主鉱区なの?

 だけどこの先に必ず何かがあるに違いない。沢の対岸には何やら沈殿池のような遺構が見えているし。期待大だ。もしかして、もしかするゾー! 私は、細かなズリを踏み締めながら歩いていった。

 辺りには、コンクリートの遺構、いや、現役の施設がいくつかある。それらは治水のための堰堤か、砂防のためのダムかと思われた。 ここに選鉱場があった、という記述をあるサイトで読んだことがあるので、ワクワクする気持ちをじっと抑えながら、歩いてみることにした。


       大がかりなコンクリートの施設だ 遺構と呼ぶにはまだ早いだろう


         その下方の平場にはこんな貯水池の跡が… これは何?

 ん? これは坑口ではないか?   取水パイプが出ているのは、さっきの水道橋を通って集落につながっていたのだろう。 その向かいには、沈殿槽跡かと思われる深みがある。その先には、かなりの広さの平場が広がっている。ズリ置き場だろうか、それとも選鉱場跡だろうか。


      取水のための水道施設か? いや、坑口そのものじゃん!


           この平場を貴兄、貴女はどう見る? 謎だ…

 しかし、これはほんの一部の遺構でしかなかった。この後、最後に私はさらに大きな施設跡を目撃することになる!

 広大な平場には、わずかに土の盛り上がったところ以外には何も構造物や遺構はなかった。しかたなくそのままなだらかな斜面を下る。と、眼下にはまたしても窪地がある。どうやら沈殿池のようだが、これは大がかりな施設だ。これだけの沈殿池を必要とした鉱山は、全体もかなりの規模だったのではあるまいか。まさに驚くべき浄蓮鉱山。


           この窪みの規模はどうよ?! 大きすぎる! 広すぎる!

 しかしちょっと気になることもある。沈殿池の排水部分には縦のスリットが設えてあのだ。これは単に木製の嵌め込み板で塞いであったのではないかい? 鉱山の沈殿池って、こんなこ構造してるの? そうなら、鉱排水はダダ漏れだろう。


          これが鉱山の沈殿池としたら、排水ダダ漏れじゃん…

 もしかしたら、これは鉱山の沈殿池跡ではなく、例えば鱒養場の水槽じゃないのか? 謎である。

失意のうちに
 これ以上下っても何もないな、というところまで見て回った。すでに沢の向こうには浄蓮の集落が見えている。しかない、今日の探索はここまでだ。何だか煙に包まれたような感じだ。

 半ば失望しながら、今回はこの地を後にすることにした。戻りながら、沢の近くでまたこのようなズリ捨て場のようなところを見た。沢田鉱山にあったような、細かなズリが集積している。うーん、鉱山の臭いはぷんぷんしているのだが、どうも確信が持てない。浄蓮鉱山って、一体…。  


           ここにもやっぱりこんなズリ山があるんだけどなぁ…

失敗の数々
 私が出かけたこの日の前日は、雨だった。探索当日は晴れたのだが、これはあまりよい条件ではなかった。
 まず、足元がよくない。スパイク付きの長靴を履いていったのに、山の斜面を登る時に、ズリズリ滑ってしまう。これはこわい。
 次に、湿気でムシムシする。不快指数99%だ。
 さらに、買ったばかりのデジ一眼EFレンズ10−22mmも、レンズの前玉につけたフィルターの内部が曇ってしまった。これでは撮影できない。トホホのホ、の連続である。これからの探索には、前日の天候も考慮して実行することが求められるな。

出会い
 こうなったら思い切って集落の中のお宅を訪ね、話を伺ってみようかと思った。
 しかしここはネットでも知られた鉱山跡。ズリ探しの諸氏もかなり訪れていると聞く。となると、今の私は、静かな集落に足を踏み入れた他所からの闖入者だ。きっと招かれざる客だろう。

 そんな懸念があり、今回は特に積極的に玄関チャイムを押す気にはならなかった。もう少し前調査をしてまた来よう…、そう思った時だった。
 一軒のお宅の庭から、カートに乗ったご婦人が出てこられた。これも何かの縁だ。声をかけて話を伺ってみることにした。
予想に反して、ご婦人は好意的に詳しく話を聞かせてくださった。

 その話はこのような内容だった。

「すみません、お騒がせします。私、浄蓮鉱山の跡を見に来たのですが、よく分からなかったんです。鉱山はどの辺りにあったか、教えていただけますか?」

「ああ、鉱山ですか。どこが鉱山だか分からなかったですか。そうですね、初めて来たでは、どこにあったかは分からないかもしれないね。」

「どの辺りが鉱山の跡なのでしょうか。お墓のある辺りを探してみたのですけど…。」

「そこにある家の裏に、鉱山の飯場があったですよ。私は50年前にここに(お嫁に)来たけど、その頃はもう鉱山は(あまり)やっていなかったね。 」
「うちのおばあさん(姑さんのこと)はここで鉱山で働く人たち相手の店を開いていて、パンや日用品がよく売れたと言っていたよ。」
「鉱山が閉まって働く人たちがいなくなった時、飯場にあった道具は、大きいのは大仁鉱山かな、運んで行って、ほかのはみんな置いていったよ。おじいさんがそれらを少しもらったから、今でも物置の屋根裏にあるんじゃないかねえ。」

「鉱山のある場所ですか、お墓の前を通って奥に行くと、温泉のやぐらがあるんですよ。その辺りにたくさん石(ズリ)が落ちています。その辺りが鉱山です。そこから奥へは私も行く用事がないので、行ったことがないから、分からないですよ。」

「沢の向こうにプールのような、鱒を飼った池の跡があったのですが、あれは何でしょうか。」

「プールはないですね…。あれは、狩野川台風が来た時に川が荒れて被害が出たので、それからは被害が出ないようにと作ったもの(治水のための遊水池)ですよ。」

「やっぱり治水のための遊水池だったんだ…)では、よい鉱石を選ぶための選鉱場や、トロッコの線路はあったんですか?」

「そんな建物はなかったですね。掘り出した石は、運んでいっただけですよ。トロッコも、そんな大がかりなものはなかったです。」

「そうですか、トロッコはなかったんですか…(ガッカリ)。でも私、お墓の前を通って、奥に入ったんです。しかし分からなかったですねぇ…。途中、まだ新しい鉄の蓋をしたコンクリートの水槽のようなものやパイプがありましたが、あれは何でしょうか?」

「あれは、東電が引いている水のパイプですよ。途中が崩れてパイプが切れてしまったので、水がこちらに出てくるでしょ。それを防ぐために作ったんですよ。」
(そういえば国土地理院1/25000の地形図に点線でパイプラインが示してありましたっけ)

「そうですか、いろいろと教えてくださり、ありがとうございました。」

「いえいえ。あんたはどこから来たんですか? え、下田、近いじゃないですか。ここは、石を探しにけっこう人が来るんですよ。」

「(やっぱりズリ探しの人達が来てるんだ…) そうですか、私もまた出直してきます。どうもお騒がせしました。」


      ご婦人のおられる左の建物の奥に、鉱山の飯場があったという

 ご婦人にお話を伺って、ようやく浄蓮鉱山の姿が見えてきた。 採鉱の中心地は、やはり墓地の前を通っていったところの、沢の右岸のようだ。しかしまだ鉱山探訪の経験の少ない私には、その所在地が分からなかったという訳だ。

 S川隊長、すみません、下見は失敗しましたー。浄蓮鉱山はズリでは有名のようですが、坑口は分かりませんです。もう一回、行ってきますね〜。
                                             
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