葉

チビ犬と地蔵山に石造物を探す
    探索 2006年5月3日
 
 今年もやってきました、ゴールデンウイーク。幸いにも?カレンダー通りのお休みがいただける事になり(やらなくてはならない仕事がない、という事ではありません)、さてどこに行こうかと画策することしばし。

 3日(水)は予定していた仁科の天城鉱山の探索が延期になったので、近場でどこかいいところはないかと考えたら、ありました。トップページから未リンクになっている「地蔵山」です。ここの石造物は改めて画像を撮りたかったし、ワラビもまだ出ているのではないでしょうか。特に事故がなければ3時間で行って来られる場所です。お休み中の第一歩にはちょうどよいでしょう。と言う訳で、行ってきました。(しかしこれがチビ犬とのエピソードの始まりとは…)

バイクを走らせる途中、落合のバス停で新緑に包まれた地蔵山のたおやかな山容が私をいざなうのでした。



 取り付きは、箕作の深澤洞です。入り口に置かれた稲梓中学校のアルミ缶回収かごには、鈴木まもる画伯のイラストが描かれていました。


     箕作交差点から地蔵山入り口方面を見る


       地蔵山入り口


        ネコの書き方が独特です

 また、ここの辻には、深沢洞のサイの神が安置されています。自然石を利用したサイの神は珍しいです。


     深沢洞のサイの神 高さ50cmほど


      深沢洞を奥の方へ入ります
 
 バイクを走らせ、洞の車道の一番奥まで来ました。と、そこにおじさんが1人います。

 バイクを停め、地蔵山に行きたいのでここに置かせてほしい旨を伝えると、「おや、地蔵山へ。」と関心を示してくれました。と、目の前に、真新しい祠と地蔵様があるではありませんか。

「新しいお地蔵様ですね。」と私が話しかけると、ご主人は、

「これは、この辺りの20軒ぐらいの家で作ったんだけどさ。地蔵山にある地蔵様には毎年6月にお供え物を持ってお参りに行っていたんだけど、だんだん年をとってきたらなかなか行けなくなってね。それでお地蔵様をここへ下ろす意味で、新しい地蔵さんをこしらえたんだよ。」

「地蔵山には戦時中に飛行機の監視所があってね、いまでも塹壕が残っているよ。飛んでくる飛行機を見て、あれはB29だ何だと言えるように、訓練していったよ。」

「途中に山の神もあるよ。どうしてだか、それもうちでお世話しているんだよ。今では屋根が壊れてしまってね。無くなっちゃったんじゃないかな。小さいお地蔵様もあるなあ。」

「昔は奥の方まで開墾して、畑にしていたね。今では道も荒れてきてしまったが、でも道作りはやっているよ。」

「おたく、どこから来たんだえ? 本郷? そうかい。」

そんなふうにして話を聞いていますと、お地蔵様の方から茶色のチビ犬がやって来て、「ハッ ハッ ハッ …!」と息を弾ませながら私の周りをはね回り、すり寄ったり飛びついたりするではありませんか。かわいい〜いん。


       チビ犬登場! 何だか笑っているように見えますね… ふふふ

「これはまだ生まれて1年経たなくてさ。知らない人がいると、喜んじゃってこうなんだよ。コラッ!」

「この辺はうちの山なので、筍を採りに来る時や散歩の時にいつも連れてきているんだよ。だからすっかり道を覚えてしまって…。こーら、ほら!」

 私がご主人にお礼を行って歩き出しますと、おやおや? チビ犬がついてきます。ご主人は棒を持ってチビ犬を行かせまいと牽制します。しかしチビは、ご主人の攻撃に怯みながらも脇をすり抜けて私の方へやってきます。







このままでは、私にくっついて地蔵山まで行ってしまいそうな勢いです。

「紐を持ってこなかったからなあ…。もう散歩にはついて行き切れないだよ。」とご主人はぼやいていますが、チビはそれをよいことに、ご主人を翻弄しています。



 とうとうご主人はポケットからビーフジャーキーみたいなのを出して、チビの鼻先に持っていき、チビが頬張っている隙に首輪を掴み、押さえてくれました。そのチャンスに改めて礼を言い、先を急ぎました。

 地蔵山に初めてきたのは、もう4年ぐらい前のことでしょうか。微かな記憶を辿って、道を急ぎます。チビ犬がご主人の手を放れたら、追いかけてこないとも限りませんから。


          竹林の中を登る道

 と、数分後、ザザザ…とう足音がして、ハアハア言いながら歩く私の所に駆けてくる気配が…。チビです! 何と、チビ犬は、ご主人がもういいだろうと思って手を離した時に、まだ私の後追いを諦めていないでいて、懸命に追いかけてきたのでしょう。何とまあ…。可愛いものですねえ。



 でもこれではご主人も困るでしょうから、届けないと…、と思ったのですが、そこはご主人がリードをつけていなかったのが敗因ですね。

「チビ、地蔵山まで行く?」

と私が尋ねますと、

「ハッ ハッ ハッ …(行く行く!)」

と同行する意思表示をするではありませんか! (って、そんなことナイナイ!)

「おじいちゃんは置いていっていいの?」

「ハッ ハッ ハッ …(置いていっていい、いい!)」

「じゃ、行こうか!」

「ハッ ハッ ハッ …(行く行くっ、て言ってるじゃん!)」

 そのようにして、後から棒を持ってすごい勢いで追いかけてくるかもしれないご主人の姿を振り切るように、私とチビ犬は山道を駆け上がったのでした。すっかり悪い “犬さらいのおぢさん” になっていた私でした。

 初めて歩く山道は長くても、同じ道を2度目に歩くと短く感じられる、というのは不思議なものです。(ここは確か通ったことがあったな。)と思い出しながら、山道を歩いていきます。所々に倒木はあるものの、それほど歩きにくくはありません。

 と、少し高いところにお地蔵様を発見。これがあのご主人が言っていたお地蔵様でしょうか。ちょっと記憶にないので、前回来た時は気がつかなかったのかな、私。


         登山道のちょうど中間の辺りでしょうか


      銘などはありません 高さ45cmほど

 チビ犬はまだ帰ろうともせず、私の前や後ろ、右や左をつかず離れず走っていきます。さすがに犬にも登りはきついらしく、「ハッ ハッ ハッ …、ガハッ、ゲホッ! ハッ ハッ ハッ …。」とむせながら息を切らせています。そうまでして着いてきたいのは、まだ子犬だからですね。可愛いですねェ〜。



        ハッ、ハッ、こっちだよ


      あれ? らいおんさんのバイクのにおいが残ってるよ

 さあ、倒木を乗り越え乗り越え、だいぶ標高を上げてきました。杉と雑木の林の境界を歩いて抜けると、四差路があり、そこの小高いところに続く道を登ると、山の神様があります。その存在はらいおんサイトで知ったのですが、見るのは初めてです。ああ、これなんですね。山仕事の人たちが行き交う交差点近くの小高いところにあるなんて、いかにも山の神様の居場所という感じです。


        左 常夜灯  右 山の神の祠 だと思います


      山の神の手前を右に回ると、数沢洞への道が分岐しています


         倒木が行く手を邪魔しています

第一ワラビポイントまで来ました。が、あれれ、もうすっかり葉が開いています。残念〜。


          残念、ワラビは遅かったです

 そこから道はほどなくして右に回り込みます。そしてS字状に曲がって、山頂に至ります。辺りにはヤマツツジが紅い花をつけていて、いかにも春らしい景色を演出しています。チビ犬はといえば、あちこち薮を探りながら歩き回ったり疲れてしゃがみ込んだりしています。忙しいワンコですねえ。





             頂上に着いたよ〜

 さて、ようやく地蔵山の頂上に着きました。思ったより早く着いた感じがします。チビと一緒だったからかな?


             地蔵山の地蔵様


              向こうは天城連山でしょうか

 山頂はテニスコートぐらいの広さがあり、足元には航空機監視所の基礎跡や塹壕がはっきり見てとることができます。東のはじには、石の祠に納められた地蔵様が3つ佇んでいます。ここでもワラビは…、葉が開いていました。遅かった…。

 どうしてここの山が地蔵山と呼ばれているかは、もちろん山頂に地蔵様がいるからでしょうが、ではなぜ地蔵様が祀られているのでしょうか。建立された年号などは確認できなかったので何とも言えないのですが、チビ犬のご主人の話では、山仕事をする人の安全を守るためだろうね、との事でした。


          戦時中の監視棟の基礎だと思います

 おっと、長居はできません。チビ犬のご主人が下で途方に暮れて待っているかもしれません。 調子に乗ってここまで来てしまいましたが、一刻も早くチビを連れて下りなければ…。

 山の手入れをしていないことはないでしょうが、地蔵山山麓は雑木が茂っており、見晴らしはよくありません。でもかろうじて下田富士が見えました。よく見ると、向こうに御子元島が見えています。海は荒れていました。


           下田富士と御子元島が見えました
 
 チビは、獣道を知っているのでしょうか、登山道から外れてはあちこちチェックして回っているようです。よく見るとチビの行く先には微かな道が認められます。さすがは祖先がオオカミだけのことはあります。

 ところが、山神様の辺りまで下ってくると、チビの姿が見られなくなりました。野生動物の臭いを追っていったのでしょうか、薮の中に入っていってしまったのです。

 これは困った。ちゃんと一緒に下山しないと…。仮にご主人が帰ってしまっていたら、私がチビを届けなければなりません。でもさっきのご主人の家だって分からないのです。近所で聞けばよいかもしれませんが…。

「チビー、チビー。」と何度か呼ぶと、やがてがさがさっと音がして、チビが現れました。ああ、よかった。さ、早く帰りましょ。

 しばらく山道を下り、もうすぐ竹藪地帯に戻るのかな、という辺りで、風の音に混じって遠くからチビを呼んでいるのか、女性の声が聞こえてきました。もしかしてご主人が探しに来たのかもしれません

 その声はチビにも聞こえたらしく、私のことは放っておいて、チビは一目散に声のする方へ山道を下っていきました。きっとご主人が一旦家に帰り、チビがいなくなったことを告げて奥さんを呼んできたのでしょう。やっぱり飼い主ですね。 バイバイ、チビ。楽しかったよ。また会えたらいいね…。ほっとして腰を下ろし、お茶をすすりながら一息入れる私でした。


         ありがとう チビ また会おうね…



 と、休憩していると…、

しばらくたってまた

「ハッ ハッ ハッ …。」

と息を弾ませてチビが来たではありませんか。一旦ご主人に顔を見せて安心させてから、また登ってきたのでしょう。やれやれ…。

 (もしかしておかあさんに叱られるかなあ…?)と思いながらチビと竹林を下っていきますと、筍を採りながらチビを迎えに来ていたお母さんがいました。

 お母さんは私に苦情を言うどころか、

「あれまあ、すっかりご迷惑をかけてしまって…。」

と恐縮されています。おじいちゃんから話が伝わっているのですね。いえいえ、こちらこそ。チビと山頂まで行って来たのですから、こちらがいけなかったのですよ。お陰で楽しかったですよ。

 お母さんは、

「チッチちゃん、ほら、お家に帰るよ。まんまあげるからね。」

と、幼子に話しかけるようにチビをあやしています。これではチビも優しいワンコに育つわけです。



 「生まれて半年ぐらいでしょうか、人なつっこくて、誰にでも着いていくんですよ。」

 「私の言うことはちゃあんと聞くんですよ。どこにいても私が呼べばとんできます。だから迎えに来たんですよ。」

 「普段は家の中でオリに入れているもんで、こうして外に来ると喜んであちこち行ってしまうんです。」


  チッチちゃんを、ネコかわいがりならぬ、イヌかわいがりをしているお母さんです

そういって、お母さんは私に掘ったばかりのタケノコを2本持たせてくれました。ありがとうございます。

バイバイチビ、今度こそホントにお別れ。大きくなったらまた一緒に地蔵山に行こうね。


       ああ、今度は本当に行っちゃった…


          バイバイ、またね、チッチちゃん


  真新しいお地蔵様 よく考えられたデザインの祠です お賽銭を10円入れてきました

 深沢洞から下りた後、相玉から見える地蔵山を画像に納めました。途中、箕作の小学校の下では、たくさんのこいのぼりが青い空の下で風に泳いでいました。


          相玉から見た地蔵山です(中央) その左は大平山ですね


   毎年恒例のこいのぼりです(小学校下にて)

                                             
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