いよいよ坑内へ
とうとう私が入る番になりました。杖代わりに持ったカメラの一脚があるので、ステップに足をかけて降りる時、やや降りにくかったです。

坑内に降りた人がどんどん内部に入っていきます 9:14
いよいよ坑床に降りました。靴を履いたままなので、濡れることは覚悟のことです。そのように案内されてもいましたし。
坑口に近い辺りは、このように石垣で補強され、覆坑されていました。

ここが深良用水隧道の内部です 感無量・・・ 9:17
しかしその奥は地盤が本来の肌を見せています。内部はどのようになっているのでしょう。

参加の皆さんも興味深げに内部を見ています
岩盤を見る
覆坑が切れてからの地肌を見てみました。かなり大きな岩が見られます。軟らかい土の中に硬い岩が混じっているように印象を受けます。

大きな岩が突き出ています 落ちてこないのかな

人夫達が鑿で掘った岩壁です
入ってしばらくの間は、坑床がこのようにフラットになっていました。しかし300余年の水流によって坑床は削られ、徐々に荒れた様子を見せ始めることになります。

このようなフラットな路盤はここだけでした
私のそばを歩いていた人が、網で魚を捕らえました。ナマズだそうです。おじさん、逃がしてあげてね。

後で逃がしてあげたようです 9:21
そのうち、このように隧道は鉱山の坑道のようになってきました。白く見えるのは、コケでしょうか、カビでしょうか。

鉱山の坑道にそっくりです
より深く進入すると…
後ろを振り返ってみました。水配人のS氏に引率されて、深良小の子ども達が恐る恐る着いてきています。

初めのうちは落ち着いて歩いていた子ども達ですが…
上を見上げると、空気孔のような穴がありました。穴の直径は80cmほどです。
このような謎の穴がいくも開いています
徐々に水深が深くなってきました。深良用水が真の姿を見せ始めたのです。

水深が膝当たりまでになりました 9:24
天井にまた空気孔のような穴が開いています。咽せるような湿度の高い坑道にあって、ひんやりとした空気が確かにこの穴から下降してきています。穴の直径は1mないでしょう。この空気穴を掘るのもかなり難しかったと思います。

地表と繋がっていると思われる空気穴です
「勘助堀り」か?
やがて坑道は断面が方形になりました。慶長時代の金山に見られる“勘助掘り”と同様の形です。

縄地鉱山の大名坑に似ています 9:27
しかしじきにその勘助堀りは元の断面に戻りました。
すでに画像をご覧になってお分かりになったと思いますが、隧道は右に左に曲がりくねっています。ところどころ、硬い岩盤に当たり、右に進むか左に進むか、試掘をした跡が見られました。それはそのまま人夫の苦労の跡でしょう。難工事であったことが伝わってきました。

奥が左に曲がっています 9:28
下の画像では、一旦右に掘り進んだものの、岩盤を越えられないと分かったので埋め戻して左に進路を変更したように見えます。まさに苦労の跡です。

おそらく初めは右に掘り進めたのでしょう 9:28
このような穴が上部に掘ってありました。これも試掘の跡でしょうか。

岩盤の固さを探った試掘跡でしょうか 9:29
下の画像のように、坑道がS字形に曲がっているところもあります。しかし一体どのようにして進行方向の全体像を把握していたのでしょうか。

右に左に隧道は曲がっています
初めは気がつかなかったのですが、坑門からの距離を示す札が掛けてありました。

「500m」の札です 直径は8cmほど 9:31
阿鼻叫喚の世界
入坑して20分ほど経った頃、坑内に異変が生じました。コウモリ男爵が現れたのです。初めは1匹2匹と目立たなかったのですが、その数は加速度的に増加し、ついには隧道内は所狭しと飛び回るコウモリ男爵によって席巻されたのです。
この後、隧道内には子ども達の黄色い悲鳴が響き渡るのでした。

「いやああん、怖いよー」 「大丈夫、噛みつきはしないから」 9:33
この辺り、坑内の断面はきれいな馬蹄形となりました。場所によって坑道断面が変わるのはどうしてでしょう。地質と関連があるのでしょうか。

きれいな馬蹄形の曲線を見せる坑道 9:33
やがて一つの難所に差し掛かりました。路盤が水流によって深くえぐられて深い渕になっているため、壁に打ち込まれた金属製のステップをたどって先に進むのです。

足を踏み外したら、奈落の底へ真っ逆様。ここだけはさすがに怖かったです。

カメラを水に落とさないようにするのが大変でした 9:33
難所を越えますと、飛んできたーっ! コウモリ男爵の群れです。
彼らは静かな眠りを覚まされ、パニック状態になって私たちの頭上を飛び交います。中には襟首にぶつかったり顔の直前で向きを変えたりするのがおり、彼らの羽ばたきや感触が直に伝わってきます。
子ども達はもう大騒ぎ! (^_^;)
キャーッ! わああああっ!
いやああ〜っ! えーん、えーん!
ぎゃああああ〜ん! ・ ・ ・ ・
その声は幾重にも隧道内に反響し、大変です。
さっき越えた深い渕といい、コウモリ男爵の乱舞といい、これはまさに隧道ワールド全開! 私も雰囲気にのまれて、もう笑うしかありませんでした。
まさに、絶頂!
興奮! 快癒!
忘我! 恍惚! エ・ク・ス・タ・シー!

乱舞するコウモリ男爵に思わず大人も頭を伏せてしまいます 9:37
ちょっと冷静になって天井に目をやると、ところどころにコウモリ赤ちゃんのコロニーがあるのが目に入りました。何百匹という小さなコウモリの赤ちゃんが、びっしり体を寄せ合って岩にへばりついているのです。私としては見ていてあまり気持ちのよいものではないです。
しかし春に会った「日本火山洞窟学会」の方々は、コウモリの数を調べると周囲の環境が分かると仰っていました。例えば農薬散布によって昆虫の数が減るとそれに比例してコウモリの数も減る、というようなことです。学会の方々も今回入坑すればよかったかもしれません。

実は彼らも人間にぶつからないようにかなり気を遣って飛んでいるのですが 9:38
ついに到達!
さて、コウモリ男爵達はまだ乱舞していますが、コウモリを見に来たのではないので、大事なことを見落とさないようにしましょう。
午前9時42分。入坑して31分後。前を行く人たちの動きが止まりました。何が起きたのでしょう。
その理由はすぐに分かりました。箱根側と深良側の両方から掘り進めた隧道が結ばれた地点に到達したのです。私が一番来たかったところにとうとう来たのです。さあ、そこはどのようになっているのでしょうか?!

「深良用水隧道に入る〜その3」へ続く
|