葉

蓮台寺に南豆馬車鉄道の跡を追う
 探訪2001年10月6日

 古道探索を始めてから、いろいろな資料探しをする関係で耳にする史跡がありました。それは伊豆の鉱山跡であり、今回訪ねた『南豆馬車鉄道』の跡でした。
 この馬車鉄道(以後、『馬鉄』と呼ぶことにします。地元でも馬鉄と呼ばれていますので。)のことをはっきり知ったのは、私の高校の百周年記念写真集(昭和54年発行)にその馬鉄跡の写真があったことでした。当時は、蓮台寺(実はその写真は中村だった)に線路があったんだなあ…、と思う程度でしたが、稲生沢地区の職場に来たからには訪ねてみなければ、と思っていました。それに、稲生沢の小学校に、今はやりの総合的な学習で集めた馬鉄や蓮台寺鉱山の資料があるのです。これはもう行くしかありません。


高校の百周年記念写真集より






















   
同写真集より 蓮台寺付近? 線路が見えます 

左同 今の永谷立野店のあたりでしょう
向こうに本郷橋が見えます
           
 馬鉄は昭和21年に営業をやめ、その後、下田温泉株式会社に経営権を譲ったそうです。温泉会社は、その後、線路跡に温泉のパイプラインを引いて(一部線路跡と異なる地域もあるようです)今に至るそうです。ですから、馬鉄跡には今でも温泉のパイプラインがあるそうです。ということは、そのパイプラインをたどっていけば、それが馬鉄の線路跡をたどることになるのです。

 さて、南豆馬車鉄道については、すでに先達が詳細をホームページに載せておられますし、レポートした書物もありますので、私はそれらを参考にして追跡することにしましょう。



                手持ちの古い絵はがきより 蓮台寺温泉全景   路上に馬車らしきものが見えます

 今回は、蓮台寺側の始発点である大沢口およびその奥の坑道跡から追跡を始めました。

 下大沢に上り、蓮台寺方面を見たところです。右の小屋は鉱山関係の建物で、道路にかかるパイプ橋は、鉱口から出る排水パイプだそうです。 
 これが蓮台寺鉱山の坑道入り口の一つだそうです。もちろん立ち入り禁止となっています。 このほかにも坑口はあったことでしょう。私が高校生の頃、上大沢の道をランニングしていくと同じような坑口があり、鉄柵の奥から透き通った青緑色のきれいな水がこんこんと湧き出ているのを見たものでしたっけ。
 
 この坑口からトロッコ線路が出て、選鉱場まで延びていたそうです。
 同じく蓮台寺方面を見たところですが、ここで奇妙な遺構があるのに気づきました。左右の石垣の中程に、一対のちょっとでっぱった棚のようなものが見えますか? もしかしてこれは…。
 高さはちょうど大人の目の高さくらいで、長さは4.5mほどです。もしかしてこれは、大沢口からさらに奥に延びていたという線路の橋梁跡ではないでしょうか? 後で聞いたところでは、この猿喰坑から大沢口の対岸にあった機械選鉱場まで延びていたトロッコ線路の橋脚の基礎だそうです。線路は、ここで道路の上を橋で渡っていたんですね。
 よく見ますと、蓮台寺方面に向かって右の橋梁が1.5mほどずれて作られています。ということは、線路は、斜め30度ぐらいの角度で道路を横切っていたんですね。当時の様子をこの目で見たかったです〜。
 これが大沢口のバス回し場です。画像の手前にはジャパンエナジーの事務所があり、そこには昔、現場事務所と選鉱場、坑員用の風呂などがあったそうです。また、川の対岸には大きな機械選鉱場があり、鉱石を運ぶ線路には、この下の対岸へ渡るための橋が2つあったそうです。
 この坂を下った辺り(鎖が渡してある)に、馬鉄の始発点があったそうです。線路はここから北高前バス停まで、路上に敷かれていたそうです。
 現在の『天神前』バス停です。この手前側左に鉱山の事務所があり、馬鉄も支線が奥へ220m伸びていたそうです。支線の終点には、やはり選鉱場と貯鉱場があったそうです。(鉱口などの様子は、いずれ別のページで紹介します。)
 下田北高前のバス停です。右のシャッターつきガレージへ延びる小道が見えます。ここで線路は車道と別れ、そちらに延びていたようです。
 ここのY字路には昔、村上書店の蓮台寺支店があり、本や学用品、菓子パン、清涼飲料水などを売っていました。当時、山岳部の練習で疲れて帰り道についた私たちは、ここでたしか1本50円のファンタを飲んで、週刊プレイボーイのグラビアに胸をどきどきさせながら一休みしたものでした。
 Aコープ立野店の裏辺りです。昔の地図からすると、この辺りを線路が通っていたのではないかと思うのですが、どうでしょうか。一帯が住宅地になっているので、当時の名残はほとんど残っていません。
 立野公園から見た温泉橋です。地図によりますと、当時の馬鉄橋は、公園のこの辺りから向こう岸の中の瀬に向かってかかっていたようです。
 ちょうどこの日、公園のゲートボール場に年輩の男性が4人いましたので、昔の様子を伺ってみました。すると…、

「こんにちは。昔の馬鉄の跡を探しているのですが、橋はどの辺りに架かっていたのでしょうか?」
「馬鉄の橋か…、昔とは川の形が変わったからなあ、でもこの辺りだよ。橋の向きは違うけどな。」 「いやあ、あの辺は変わりないだろ。中の瀬の辺りには、今でも跡が残っているなあ。佐藤クリーニングの裏だよ。それと、仏源寺の前にも跡があるな。馬鉄か、子どもの頃は、よく後ろに乗ったものだったよ。乗るとおじいが(御者のことでしょう)『こらっ!』と怒ってなあ。だけど、あのおじい、よく居眠りをしたっけなあ。」 「昔はそこまで舟が来ていて、炭や材木を積んで下っていっただよ。だから、中の瀬は、ここいらで一番にぎわったところだったよ。」 「昔は、そっち(公園の北側)に川があって、それをあっち(蓮台寺パーク側)に流れを移したもんだから、はじめの頃はよく洪水が起こってなあ。困ったもんだったよ。」
 昔のことのためか、あまり詳しくは教えてもらえませんでした。初めて会う人ですから、仕方ないですね。でも、遠くを見るような目で語る姿が印象に残りました。
 稲生沢川の対岸、佐藤クリーニング店の裏です。資料『宮脇俊三氏著 鉄道廃線跡を歩く Y』によりますと、ここに停車場『中之瀬待合』があったそうです。線路はここで旧国道を横切り、仏源寺の前へと進んでいきます。
 同じ場所を中村側から見たところです。ちょうど左に停まっている車(クラウン)の辺りが停車場だったそうです。『鉄道廃線跡を歩く Y』に、まさに同じ写真が載っています。
 中の瀬のメインストリートの様子です。左のなまこ壁の家は、大正時代に発行された写真集『伊豆鏡』にそのままの形で写っています。すごいことですね。ちなみに『伊豆鏡』によりますと、大正年間はこの辺りに銀行や会社、酒店(今もあります)、呉服店、金物店、洋物店、雑貨店が軒を連ね、川舟の船着き場があって、木材や薪、石材、炭などを積んで下田港に下ったそうです。
 中の瀬バス停からすぐの仏源寺前です。この辺りは、当時の面影をよく残しているところのようです。白いコンクリートの部分は、去年改修されて広くなったところです。その前はもっとひなびた、いい雰囲気がありました。
 仏源寺のすぐ南側の画像です。木橋の下にかかる温泉パイプラインがはっきり見えます。ここを馬鉄が通っていたんですね。この辺りが一番当時の面影を残しているように思えます。
 温泉パイプラインは繁美建材と永谷立野店の南を通ってバイパスの地下に潜り、この伊豆急線と車道の間を通って中村に向かうそうです。
 電器店100満ボルトの前を通り、東中の公民館の前へ着きました。線路はここで現在の国道から離れ、南に向かったそうです。冒頭の中村の白黒写真は、ここの道を写した写真です。
 やがて道路(線路跡)は、土屋造園の西を通って、稲生沢川に突き当たります。この辺りに、停車場『中村待合』があったそうです。
 下田警察署の前の県道を横切ったところです。ここから線路は川に沿って南下していたそうです。ここからところどころに見える温泉パイプラインが、かつて存在していた線路を垣間見せてくれます。
 河津建設の建物を過ぎたところに、ありました。温泉のパイプラインです。継ぎ目につけられたプレッシャーゲージの針が、現在温泉パイプラインが稼働中であることを知らせています。ここの小さな川を、馬鉄は木橋で渡ったことでしょう。
 温泉パイプから湯を取り入れている、地元の人たちのための共同浴場です。もちろん、地元の組合員しか入ることはできません。
 第三保育所の南側に、パイプを見つけました。線路もここを通っていたんでしょうねえ…。
 河口に近いクリーニング工場の近くにも、パイプラインを見つけました。しかし、これでは廃線跡を訪ねるというより、温泉のパイプラインを訪ねることになってしまいますね…。とほほ…。
 下田荷扱い所があったという河岸です。下の絵はがきの画像と、どう一致するのでしょうか。
          手持ちの絵はがきより。戦前の下田町と港 下の方に線路の終点と荷扱い所が見えます
 さて、私が持っている資料による追跡はここまでです。あとは、そう、当時の鉄道や鉱山の仕事に携わっていた人たちの話を聞かなければなりません。
インタビューをしましたらアップしますので、また来てください。

参考文献
・ホームページ 『夢のトロッコ』    
・『鉄道廃線跡を歩く Y』 宮脇俊三 氏著  
・静岡県立下田北高等学校の百周年記念写真集
・手持ちの戦前発行らしき絵はがき『了仙寺境内 去順堂発行 名勝南伊豆 ほか』
                                             
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