葉

縄地 麹坂のバンタ石を探せ〜1
探索 2009年1月12日   
 
縄地の謎
 河津町縄地は慶長時代に金山が開発され、たくさんの人々がこの地に移り住んで採鉱に従事しました。家々の数は増え、その数八千戸を数えたとも伝えられています。当時の繁栄ぶりは、「床場」「流し場」「寺屋敷」「跳ね段」「青物市場」「魚市場」「高札場」「相撲取段」「牢屋敷」などの地名が残ることからもうかがい知ることができると言われています。そして、危険な鉱山の仕事を遂行するために他所から連れて来られた荒くれ者達は、坑夫としてのきつい仕事が嫌になると反乱を起こしたり脱走したりしたそうです。

 縄地を通る東浦路にはいくつかの坂がありますが、その者達をはりつけにして罰した場所が「はっつけ坂」であり、妻と離縁の上追放されたのが「妻坂(罪坂あるいは妻切坂とも)」であると伝えられています。

そうした縄地を私が何度か訪れて鉱山跡などを歩いている中、ありがたいことに熱心な読者様からメールをいただきました。

「縄地から河津へ出る坂の途中に"バンタ石"と呼ばれる大きな石があり、子どもの頃は柴刈りの帰りにその石の上で休んだものです。」

バンタ石とは
 "バンタ石"という聞き慣れない、やや奇妙な響きのする名の石は、きっと縄地の方言による固有名詞だろうと思っていました。
しかしこの石の名を歴史学習の師匠に話しますと、思わぬ答えをいただくことができました。


 おそらく"バンタ"というのは"番太"でありましょう。

 番太というのは…

「番太:江戸時代、町村に召抱えられて火の番や盗人の番に当たった者。非人身分の者が多く、番非人ともいわれた。江戸では番太郎といい、平民がなり、町内の番小屋に住んで駄菓子・雑貨などを売りながら、その任をつとめた。」

とあります。多分その石の上で鉱山の抜け人や盗人を見張っていたのではないかと想像するのですが、いかがでしょう


 悪人の見張ったのが番太であり、縄地の外れ、河津浜へと通じる坂の途中にあるというなら、まさにそれは脱走する抗夫を見張った役人のいた場所を伝える石でしょう。まさに金山で隆盛を極めた縄地にこそあるべき石です。さらに、バンタ石のそばには、罪人の血を吸って赤くなった松の木が生えているということです。ゾ〜 (^_^;)

 しかもこの話にはもう一つ、興味深い要素があります。それは、奇しくもその石があるというのが、小縄地からガソリンスタンドの北の斜面を登り、河津浜に至る坂道の途中である、ということです。その場所は、かの東浦路の探索家であるK藤先生でさえルートが分分らなくて迂回している箇所(『東浦路の下田街道』P170参照のこと)です。そしてどうやら当時の旅行記と照合してみますと、その坂道は縄地からはっつけ坂を上り、続く妻坂を下ったあとにある急坂「麹坂」の中間辺りにあることが推測されました。

 罪人を罰したはっつけ坂、妻との離縁を迫った妻坂、そして他の地に逃れようとする抗夫を見張った番太石、縄地から河津浜へ通じる麹坂…。これらが私の中で一本の線でつながり、分断されていた東浦路のルートが徐々に浮かび上がってくると共に、現地での探索意欲に火がついたのです。

  指令…縄地のバンタ石をさがせ!

問題点
 東浦路は、縄地の集落からはっつけ坂を上り、小さな峠を越えて小縄地へ降りてから再び坂を上って河津浜へと通じる旧国道へと接続しています。
 しかしこの小縄地から旧国道への道筋がはっきりしないのです。 というのは、現在小縄地の奥では大規模な採石事業が行われており、その採石場(旧国道に面した北側にあります)から小縄地の積み出し桟橋まで、大型ダンプカーが往来するための道路が通っているからです。そしてこの辺りに東浦路があったのだろうという地点は、運搬道路を作った時に掘削され、地形が変わってしまったのです。
 その上小縄地一帯は立ち入り禁止とされているのですから、道の探しようがありません。(K藤先生はこの採石運搬道を旧国道まで歩かれたとのことです)

目論見
 しかし私にはルートに目星がついています。旧国道を河津浜の方から縄地へと向かってきますと、採石場の北端の辺りに、南に下る踏み跡があります。それがきっと小縄地へ下りる東浦路だろうと思うのです。

 とりあえず最初はこの踏み跡をたどって旧道から小縄地へと下り、どこに出るのか確かめてみましょう。そこにきちんとした道があるのか、あればきっとそれは東浦路でありましょうし、麹坂であるということになります。  



下降開始
 1月10日(土)この日はあいにく朝から雨が降っていました。しかしのちのスケジュールを考えますと、今日はどうしても探索をする必要がありました。旧道の峠脇に車を止めてカッパを着込み、手にカメラと傘を持ちました(もちろん森の中で傘が役に立たないことは明白で、逆に邪魔な荷物になってしまいました)。

下の画像は、旧135号線を伊東市方面から見たところです。雨の中、傘をさして歩いているのは、2008年9月から2009年3月まで行われている伊豆急全線ウォーキングに参加している人でしょう。以後もこうして淋しい山道を一人で歩いている人を時々見かけました。


               旧国道の峠の切り通し

 峠のような地形になっている切り通しを越えますと、電柱の脇にこうした入り口があります。ここが小縄地に下りる道、すなわち東浦路ではないかと以前から見ていました。


           木々の間を分け入る道があるのです

 傘をさして踏み跡を辿り始めました(しかしこの傘は木立の中を歩くのにはまったく邪魔になり、早々に閉じました)。右下の斜面は深く落ち込んでいます。そちらには道がないだろうと思いましたので、踏み跡を忠実に辿ることにして、東へと歩を進めました。眼下には谷が深く落ち込んでいます。



しかし、枝を払い倒木を跨いで進んでみたところ、このような岩山に当たってしまいました。ここから先にはまさか道はありますまい。



 踏み跡は、山の斜面を水平移動するように東南に延びています。しかも極端に幅が狭いです。もしかしたら獣道かもしれません。しかし眼下はかなりの急な斜面で、ずっと下まで落ち込んでいるのです。

となりますと、本来の道はどこにあるのでしょう。周囲の地形や状況からして道は谷を降りると思いましたので、南に降りることにしました。



 ジグザグに斜面を下り、谷の底部にあたる部分まで下りました。東浦路が失われ、踏み跡が消えたのは、もしかしたら旧道の工事の際に出た土砂で埋まってしまったということもあるかもしれません。  

谷底にある踏み跡
 急な斜面を下りますと、そこは谷底というには穏やかな、むしろ土で埋まった涸れ沢と言ったほうがよいような地形になっていました。あるいはここが旧道から小縄地へつながる古道=東浦路なのかもしれません。

誰が切ったか分かりませんが、谷の近くにこのような真新しい切り口がついた木が雑木がありました。これはよく山仕事に入る人が目印としてつける切り口です。ということは、最近ここを歩いた人がいるということになります。



バンタ石を探せ
 さて、東浦路あるというバンタ石についていただいている情報はこうです。

・ バンタ石は小縄地から旧道へ上る坂の中間辺りにある
・ バンタ石は、道が右から左に大きく曲がる辺りの脇にあった
・ バンタ石は直径2mぐらいの円形をしている
・ バンタ石は人が一人上れるくらいの大きさがあり、その上で休憩したり弁当を食べたりした

もしここが東浦路であるなら、まもなくバンタ石があるはずです。

(探せ、探すんだ! バンタ石は必ずあるはず!)

そう心に命じて探しました。

これなのか!?
 やがて明らかに人為による石組みが見つかり、より鮮明な踏み跡も現れました。


         道を保つために作られたような石組みがありました

そして次に私の目の前に現れたのは、この石でした。


           目の前に現れた大きな石 これがまさか…?

ちょうど人が一人乗ることができるくらいの大きさがあります。そして円形です。 しかしよく見ると石の表面は凸型をしています。乗って休むにはちょっと不安定な形かもしれません。


             下から石見上げた画像です

確信がもてませんでしたので、さらに周囲を見てみますと、5mほど離れたところにこの石がありました。


        土に埋もれていますが、なかなか存在感のある石です


         ちょうど人が乗れるように上部がへこんでいます


          これがバンタ石なら大当たりなのですが…

大きさを表すために、リュックを置いてみました。どうぞ比較してください。



こちらも大きさはほぼ人が一人乗れるくらいで、上部が凹型をしているので、むしろこちらの石の方が乗って休むのには都合がよいかもしれません。

道を辿る
 もしこの石のどちらかがバンタ石なら、ここを下れば小縄地の東浦路に出るはずです。既に縄地の東浦路にあるはっつけ坂と妻坂の位置は確認してありますので、今下っている道とそれらの古道がどうつながるか、それが知りたいと思いました。



すると、眼下に電柱が見えました。



電柱があるということは、そこが最もこうした施設を作りやすいところであるということであり、明治期に電線が引かれた時に選ばれたルートであるということです。

ならば、ここが東浦路である可能性が高いということになります!

下を見ると、採石場からの道路がだいぶ近くなっています。



果たしてこの踏み跡は東浦路であり、妻坂へと通じているのでしょうか。私には、小縄地の採石積み出し桟橋の辺りから聞こえる、岩と岩がぶつかり合うような大音響がとても恐いのですが…。(?)


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