いざリベンジへ!
実は、ここ天城鉱山を訪ねるのは、初めてではない。昨年の雷雨の日、磯崎氏と来ている。残念ながらその時には事前の情報収集に甘さがあり、間もなく本坑道に、というところで引き返していたのだ。故に今回の探訪では必ずトロッコや線路、そして坑道をこの目で確かめなければならない。かくて10月14日、磯崎氏とKAZU氏、そして私の3人で天城鉱山探訪を計画し、かの地に向かった。
下田を午前7時に出発。約1時間後、仁科の大滝ランド入り口から県道55号線と別れ、林道を通って天城鉱山入り口へと入る。未舗装林道は、倒木で塞がれてこそいないが路面が荒れており、19年前に製造されたちっぽけなカローラ号の車体を翻弄する。
大滝の上部を通り過ぎ、車両の回し場まで行って車を停める。この先の仁科川の支流に賭けられたコンクリート橋は流されていて渡れないので、徒歩でアプローチするしかないのだ。(もっとも、バイクで渡る猛者の先輩はいるが!)

天城鉱山の入り口 鉱石はここからトラックで運び出したと思われる
橋の手前に1台のブルドーザーが車体を錆びるに任せて佇んでおり、その傍らに多量の木箱が積み重ねてある。これらは、ボーリングによって採取された鉱石のサンプルのようである。箱に「滝上坑」とマジックペンで記してある。大滝の上にあるから名付けられたのだろうか。

ブルドーザーの隣の小屋には多量のサンプルが。「滝上坑」の名が黒ペンで書いてある
大滝1号坑
ぎりぎり流れに顔を出している石を伝って渡渉を試みるが、すんでの所で川にぶっこまるところだった。年をとって肥大した体にジャンプ力を求めるのは、すでに無謀というものだ。帰りは素直に水に入って渡ることにしよう。
冷や汗を流して渡った川のすぐ対岸に、作業小屋がある。入り口にはバッテリーロコが格納されており、その奥はサンプルの分析室だったような形跡がある。

途切れたレールに載ってバッテリーロコが小屋を出ることは、もはやできない
「このバッテリーロコは、ある人が探索した時、メインスイッチをひねると緑色のチャージランプが点灯したそうですよ。」
と磯氏が言う。放置されたのは何年前のことであろうか。

総重量2100kgのロコの移動を支えていたレール

これから先、このロコのバッテリーが充電されることはないだろう

鉱石サンプルの分析室だったのか 今は荒らされて見る影もない
作業小屋から奥に続く林道を少し歩くと、斜め向かいに、山の斜面を掘削したところがある。見上げると、レールが宙に浮いている。あそこにトロ線の通っていた軌道敷があるのだろう。いきなりの遭遇だ。

今にもトロッコが走ってきそうなレールだ
登ってみると、廃棄された洗濯機の白いすぐにつぶれた坑口が目に入る。そしてレールはそこから出ている!

緩やかなアールを描いているレール どのくらいまで坑内の奥に入っていたのだろう

これだけレールが残っている伊豆の金山は珍しい 閉山処理が不十分だったのか
レールは等間隔を保って枕木に載っている。ここをかつてはトロッコがあのバッテリー車に牽引されて走ったのであろうか。
そのレールの行く先を追ってみる。今渡ってきた川を見下ろすようになった辺りでレールは途切れている。
「ここでズリをホッパーでトラックに積み込んだのではないでしょうか?」と、KAZU氏が見解を示す。なるほど、そうかもしれない。ホッパーのような施設跡は見られないが、さっきのブルドーザーがその役目を担っていたのではないだろうか。
謎の石段
さて、林道を奥へ進もう。今日の探索は、ここからが目的地であるのだ。
さらに奥へ進むKAZU氏と磯崎氏 自然と足は速まる
すでに廃道となった感のあるこの林道は、鉱石運搬のために開かれたのか。それとも鉱山開削以前に開通していたのだろうか。
ふと見ると、山の斜面を登る石段がある。こ、これは前回来た時には気がつかなかった。神社があるのだろうか、それとも祠が? 登らずにはいられない。

かなり急な石段 山神様を祀った神社跡か?
苔にまみれた石段を登り詰めると、そこには祭壇の跡のような石組みが見られた。しかし建物は残っていない。祠が祀ってあったような感じがする。あるいは鉱山の安全を祈願するための石祠を安置してあったのか…。

しかし上には簡単な祭壇しかなかった

鉱山は平成4年から3年間稼働したということだろうか
滝上坑
林道を歩く。右手下には、川が流れている。紅葉が色を濃くすれば、いい景観かもしれない。しかし随所に大水が荒らした跡があり、ここが暴れ川であることを伺わせる。欄干を持たない先のコンクリート橋も、それで流されたのだろう。
10分も歩いただろうか、左手にかなりの石垣が現れた。その上は平らになっており、そこに建造物があったことが想像される。鉱山事務所があったのだろうか。

事務所か貯坑場か 立派な石組みがある
前回は、ここで探索を断念した。鳴り響く雷鳴とひどい湿気。目の前にある簡易橋のすぐ向こうにまさか探している鉱山施設があるとは思わなかったからだ。それは私の洞察力の乏しさによる誤謬だった。

簡易橋で沢を渡る。 かつてはトロ線も併設された人車併用橋だったのだろう
しかし、今日は行く。
鉄パイプによって支えられた簡易橋を怖々渡る。右手に分岐する遊歩道を見て、直進。ほどなく右手に小屋が現れる。

鉱山と遊歩道が混在している
と、先を行く2人から歓声が聞こえてきた。線路とトロッコを見つけたらしい。慌てて行ってみると、おお、kawaさんがサイトで報告されているトコッロだ。どうやら枕木敷設用のそれらしい。すっかり錆が回っていて、押してももちろん動かない。

童心に返ってトロで遊ぼうとする磯氏 しかしトロは微動だにしない

小屋に向かう線路 右下へと折り返す線は取り外されたのだろう
周囲には、当時の設備や道具が散乱している。
その線路の延びる先に作業小屋があり、傍らに簡単な格納庫(スイッチバック場か)がある。そしてレールでできた橋!が沢を渡り、先に坑道が口を開けている。

線路がそのまま橋として使われている。珍しい光景ではないだろうか。ちょっと造りは危なっかしいが。
坑口は塞がれていない。いや、以前に塞がれている画像を見ているので、後に開けられて今に至るのだろう。

坑内は高さが十分にあり、腰を曲げなくても歩くことができる。

レールがしっかり残っている。これもまた珍しい。
入って間もなくの所に十字路があり、左右に坑道が延びている。が、いずれも短いようだ。直進しよう。廃坑道にしては珍しくレールが残っている。100mほど進んでみたが、特に見るものもないので、引き返すことにした。(しかしマニアは行けるところまで行くものらしい。私もそうした仲間に入りたいものだが、もし坑道潜入中に地震が起きて落盤にあったら…、などと思うと、躊躇ってしまうのだ。)

向かって右の坑道を見たところ

こちらは左に延びる坑道 片持ちの支保工だ
三階滝
他に坑口はないかと、近くを探してみる。坑口の前を登る遊歩道を少し上がってみたが、トロ線が上がれる傾斜ではないので、少し見て下りてきた。一方、案内板によって沢を下ると、滝があった。

天城鉱山は、最近まで採掘されていた鉱山のようである。それは、鉱山跡ではあるが、遺構と呼ぶには余りに新しい。資料によると、今回見てきた他に、坑道として「大沢里坑」「」大滝2号」「星野旧坑」「中切坑」「大切坑」「中ノ沢本坑」「節分坑」「大日一番坑」「三階滝坑」「本沢坑」などがあるらしい。
探索を終えた帰り道、再びコンクリート橋を渡ろうとしたが、どうも伝って飛ぶための石がしっかりしないので(流れから顔を出している石は、たいていぐらぐらと不安定なのだ)、ぶっこまるよりはいっそのことと思い、左足だけ長靴と靴下を脱いで渡ることにした。それでも滑りそうになりながらやっとのことで渡りきったのだが、川底にイノシシの前足が2本横たわっているのには仰天した。
山のアケビは既に鳥に中身をつつかれ、木漏れ日に揺れていた。次はいつ誰がこの鉱山を訪れるのだろうか。
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